価格戦略(Price)
価格戦略は、企業の利益を左右する重要な意思決定事項です。
マーケティング・ミックスの4Pのうち、ただちに利益を左右する「唯一のP」となります。
また、最もダイレクトに顧客に訴えることができるメッセージ手段でもあります。
価格弾力性
価格を変化させたとき、製品によって、需要量が大きく変わるものと、ほとんど変わらないものがあります。
この価格変化の度合いに対する需要変化の度合いの比率を示す指標を価格弾力性といいます。
例えば、飲料や食品などの生活必需品は、価格を変化してもほとんど需要が変化しないため価格弾力性が小さく、反対に宝飾品などの贅沢品は、価格弾力性が大きいと言われています。
価格決定に影響を与える要素
価格に影響を及ぼす要因は様々ですが、とくにコスト、カスタマーバリュー、競争環境は重要です。
①コスト
利益を確保するためには、コストを上回る価格設定が必要です。
そのため、コストが価格の最低ラインとなります。
コストは通常、固定費と変動費で構成されています。
②カスタマーバリュー
カスタマーバリューとは、顧客が適正と認める金額のことです。
一般に、このカスタマーバリューを正確に把握することを難しく、リサーチ力などマーケターの力が問われます。
③競争環境
例えば、ガソリンなどの差別化できない製品の場合、競合他社が低い価格をつければ他社も追随せざるをえません。
このように、価格は、競合の価格やその動向に影響を受ける場合が多くあります。
通常、価格は、上記の①から③のいずれかを重視して設定されます。
新製品の価格設定
新製品の導入価格の設定方法として、ペネトレーション・プライシング(市場浸透価格設定)と、スキミング・プライシング(上澄吸収価格設定)があります。
両者の違いについては、下表を御覧ください。
ペネトレーションプライシング | スキミングプライシング | |
定義 | 市場シェアを獲得するために、新製品の価格をコストぎりぎり(もしくはそれ以下)に設定する | 初期に高価格を設定して、早期の資金回収を図る |
前提条件 | ✓潜在需要が大きい
✓価格弾力性大きい ⇒価格下げれば、需要拡大 ✓経験効果が効く ⇒あとで投資回収が可能 |
✓製品に差別化要素がある
✓価格弾力性小さい ⇒価格高くても買ってもらえる |
期待効果 | ✓早期にシェアを確保できる
✓低マージンにより、競合他社の参入意欲を減退させる ✓製品を広く消費者に認知させられる ✓シナリオ通りに行けば、莫大な利益が確保できる |
✓早期に投下資金を回収できる
✓プレステージ性のあるブランドを確立できる ✓市場の良質な顧客ベースを確保できる |
リスク | ✓期待通りにコストが下がるとは限らない
✓初期に資金繰り上の負担を抱える |
✓競合の参入意欲が高い
✓トータルの収益は僅少になる恐れ |
新製品の導入価格は、上表を踏まえて設定しますが、それぞれの場合において、成功さえるポイントは、次のとおりです。
ペネトレーション・プライシングを成功させるポイント
①製品の品質を安定的に保つ
大量販売が前提なので、欠陥などでアフターサービスが発生してしまうとその数も多くなり、追加コストが利益を失う致命的な事態を招く。
②購買意志決定を短縮化する
競合他社に追い上げる時間を与えず、先に市場を確保する必要がある。
そのために、潜在顧客が長期テストなどをせずに導入できる状況を整えたい。
③需要に対して十分な供給能力を確保する
大量受注に対して供給が追いつかないと、機会損失だけでなく目標収益をあげることもできなくなる。マーケティングにおける売上予想は上にも下にも外れないことが肝要。目標を大きく上回ることは、決してプラスだけではない。
④経験曲線、規模の経済を活かす仕組みを作る
大量生産することによってコストを下げる効果を生み出す仕組みをつくる。
そもそも、規模の経済、経験曲線の成り立つものでなくてはならない。
スキミング・プライシングを成功させるポイント
①製品の価値を明確にする
価値を具体的にする。できれば定量化できると良い。
短期的な価値だけではなく、長期的な価値にも目を向ける。
②納得性の高い価格設定を行う
明確にした価値に対し、顧客が納得して支払うであろう価格を設定する。
顧客に他の選択肢がある場合は、差額相当の提供価値を示す必要がある。
③顧客に価値と価格を理解してもらう
価値について顧客が理解していないことも多い。
的確なコミュニケーション戦略により、潜在価値を顕在価値にしていく。
顕在価値:現時点で買い手が認めている価値
潜在価値:教育された買い手が認める価値
カスタマーバリューを把握し、顧客に的確に説明することが重要