薬機法(旧薬事法)とは?
薬機法(「やっきほう」と読みます)とは、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」のことです。
旧薬事法が2014年に改正され、こちらの名称に改められました。
薬機法の目的について
薬機法の目的は、
-
- ① 医薬品等の品質、有効性及び安全性を確保することと、
- ② 医薬品等の使用による保健衛生上の危害の発生及び拡大を防止し保健衛生の向上を図ること
にあるとされており(同法第1条)、そのために医薬関係者等が負うべき責務や医薬品等の取り扱いが同法によって定められています。
医薬品等について、まずそのものの製造・管理・販売の各ステップが適切な知見を有する者(厚生労働大臣や知事など、しかるべき機関による許可が必要とされています)によってなされることを確保し、さらに、医薬品等に関する正しい情報が共有されることを目指す仕組みとなっています。
後者に関する仕組みとして、容器や添付文書の記載事項が定められていたり、医薬品等に関する虚偽または誇大な広告等が規制されていたりしています(同法第66条〜68条)。
2021年薬機法改正について
虚偽または誇大な広告等に関しては、2021年の法改正で課徴金制度が新たに定められました。
これにより、原則として、このような広告で得られた利益の4.5%が課徴金として徴収されることとなりました(同法第75条の5の2。ただし、利益が225万円未満の場合など、例外的なケースはあります)。
他にも、2021年の法改正では、医薬品等が安全に、そして迅速に提供され、適正に利用されるように、制度を構築・改善しています。
下表はこの改正のポイントをまとめたものです。
①開発から市販後までの制度改善に関すること | 一定の条件の下で、医薬品等の承認を早く行うようにするなど、より効率的に医薬品が開発されるように整備されました。 |
②薬剤師・薬局の見直しに関すること | 処方薬を使用している方が、より安心して薬剤を使用できるように、薬剤師が薬剤の使用状況について把握する |
③法令遵守体制等の整備に関すること | 医薬品等に携わる業者について、法令遵守体制の整備(現場責任者の責任を明確にする等)の義務が定められました。また、承認を受けないで医薬品等を輸入する場合には、厚生労働大臣の確認を受けなければならないとするなど、医薬品等に関する信頼性を向上させるための見直しがなされました。課徴金制度も、この法令遵守体制等の整備に関することの一つとなります。 |
④医薬品等行政評価・監視委員会の設置に関すること | 医薬品等行政評価・監視委員会が設置され、安全性確保や健康被害などを防ぐための施策の実施状況についての評価と監視を行うよう制度が設けられました。 |
⑤動物に使用される医薬品等に関すること | 動物に使用される医薬品等についても、人用の医薬品等に関する改正に沿った内容に改められました。 |
⑥その他に関すること | 科学技術のより良い発展のために、採血の制限が緩和されるなどの見直しがなされました。 |
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律の一部を改正する法律(令和元年法律第63号)の概要
薬機法に違反する広告とは?違反するとどうなる?
薬機法の広告規制で制限されているのは、医薬品等の効能や性能等に関する虚偽広告です。
下記でも述べていますが、景表法にも広告規制がなされています。
しかし、景表法で制限しているのは、実際よりも「良い」、または、実際よりも「おトク」などと思わせてしまうなどの表示です。
医薬品等の複雑な性能・効能をこれらの基準には還元しきれないため、薬機法での広告規制も必要となります。
また、このような広告があると、間違った医薬品の利用につながりかねず、健康を損ねてしまう危険性があり、他の商品と比べて被害が甚大となるおそれが高いことから、医薬品等の広告に関しては特別の規定を設ける必要があるとされています。
そして、薬機法の広告規制に違反した場合、同法の罰則規定が適用され、2年以下の懲役や200万円以下の罰金(あるいは両方)が科される対象となり(同法第85条第4号)、かつ、措置命令(行為の中止など)が下される対象にもなります(同法第72条の5)。
「医薬品等」とは?
医薬品等は医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品を指すとされており(同法第1条)、それぞれが何を意味しているのかは同法第2条で定められています。
承認前の医薬品であっても、薬機法で広告規制の対象となりますので(同法第68条)、注意が必要です。
「医薬品」に当たるかどうか訴訟で争われた事案もあります。
例えば、主成分が一般に食品であるレモン酢や梅酢などと同一であって人体に対して有益無害なものであっても、高血圧やリュウマチ等に良く効く旨その効能効果を宣伝して販売したときは、「医薬品」に当たるとされた事案などが挙げられます(最三小判昭和57年9月28日 昭和56(あ)第58号 薬事法違反事件)。
参考:最高裁判所判例集
「虚偽または誇大」とは?
薬機法で規制される広告は、「虚偽または誇大」なものですが、その判断基準として厚生労働省の「医薬品等適正広告基準」や「化粧品の効能の範囲について」が存在します。
参考:医薬品等適正広告基準|厚労省
参考:化粧品の効能の範囲の改正について|厚労省
基本的には、医薬品等として承認された効能や性能(承認が不要な場合は、医学・薬学的な裏付けがある効能・性能)、そして「化粧品の効能の範囲について」に記載された効能・効果等の範囲を、それぞれ超えてはいけないとされています。
また、「広告」でなくとも、医薬品等の添付文書や容器に記載する効能や性能についても制限が加えられています(同法第54条、60条、62条、64条、65条の4)。
例えば、医薬品について、承認されていない効能や性能について記載すると薬機法に抵触することとなりますので、この点も留意が必要となります。
「広告」に当たるかどうか等が争点となった事案として、平成30年(あ)第1846号 薬事法違反被告事件(最一小決令和3年6月28日)が新しいです。
とある処方薬に関する虚偽のデータを含む研究論文を学術雑誌などに投稿して掲載させる行為が、薬機法(当時は薬事法)が規制するところの「記事を広告し、記述し、又は流布」する行為に当たるかどうかが争われました(結果は否定されています)。
参考:最高裁判所判例集
薬機法と景表法の違い
広告の規制に関して、景表法(「けいひょうほう」、正式名称は「不当景品類及び不当表示防止法」です)が似たようなことを定めていますので、両者の違いについて整理したいと思います。
目的の違い
まず、薬機法の目的が医薬品等の品質や安全性の確保や保健衛生を向上させることにあるのと異なり、景表法の目的は、「商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止する」こと、そして「一般消費者の利益を保護すること」にあると定められています(景表法第1条)。
つまり、一般消費者が物を購入したりサービスを受けるための契約をしたりする際に、過度に誇示された広告などで必要以上に購買欲等が掻き立てられて、判断を鈍らせてしまう事態を防ぐことを目的としており、そのために不適切なPRやコマーシャルを規制しているのです。
広告の規制ということで薬機法と景表法は類似しているように見えますが、このように両法の目的が異なることから、細かな違いが存在しています。
景表法の規制対象
まず、広告に関し景表法で規制されているのは、次のように3種類に分けられます。
1 優良誤認表示(景表法第5条1号)
商品・サービスの品質、規格その他の内容について表示で、実情以上に「良い」と消費者に思わせてしまうものが規制対象となります。さらに以下の2つに分けられます。
- 内容について、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に示す表示
例)カシミヤ混用率が80%程度のセーターに「カシミヤ100%」と表示した場合 - 内容について、事実に相違して競争業者に係るものよりも著しく優良であると一般消費者に示す表示
例)「この技術を用いた商品は日本で当社のものだけ」と表示していたが、実際は競争業者も同じ技術を用いた商品を販売していた場合 - 内容について、事実に相違して競争業者に係るものよりも著しく優良であると一般消費者に示す表示
例)「この技術を用いた商品は日本で当社のものだけ」と表示していたが、実際は競争業者も同じ技術を用いた商品を販売していた場合
2 有利誤認表示(景表法第5条2号)
商品・サービスの価格その他取引条件について、実情以上に「おトク」と消費者に思わせてしまうものです。
こちらも、優良誤認表示と同様に、実際よりも「おトク」と思わせるものと、事実と反して「競争業者よりもおトク」と思わせるものの2タイプに分けられます。
- 例)当選者の100人だけが割安料金で契約できる旨表示していたが、実際には、応募者全員を当選とし、全員に同じ料金で契約させていた場合
- 例)「他社商品の2倍の内容量です」と表示していたが、実際には、他社と同程度の内容量にすぎなかった場合
3 ①、②以外の表示で、商品または役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示で、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあるとして内閣総理大臣が指定するもの
別途内閣総理大臣が不当な表示として指定しており、以下のようなものがあります。
- 「無果汁の清涼飲料水等についての表示」
- 「商品の原産国に関する不当な表示」など
景表法の違反事例
消費者庁が実際に措置命令を下した違反事例集を公開していますので、参照にしてみるとよりイメージが湧くのではないかと思います。
また、訴訟にまで至った近年の事例として、平成30年(行ウ)第30号措置命令取消請求事件(東京地判令和元年11月15日)があります。
この事案は、通販のウェブサイトに商品の実際の販売価格の横に「参考価格:¥4,860」というような表示を付していたケースですが、当該「参考価格」は実際のメーカー希望小売価格よりも高く設定されていたり、製造業者が一般消費者に提示する価格ではなく商品管理上便宜的に定めた価格だったりしました。
そこで、通販ウェブサイトの運営主体に措置命令が下されましたが、訴訟となりその措置命令の適否が争われました。
景表法に違反すると?
これらの景表法の規制に違反した場合、景表法に基づく措置命令(行為の差し止めなど)や課徴金(広告によって得た利益の3%、ただし得られた利益が150万円未満の場合は課されません)の対象となります。
この措置命令に違反した場合、さらに2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金(あるいは両方)が科される対象となります。
以上の薬機法と景表法の違いについて、次の表でまとめています。
薬機法 | 景表法 | |
---|---|---|
目的 | 医薬品等の性能・効用の確保、保健衛生の向上など | 一般消費者の、合理的な判断に基づいて契約をする利益を保護する |
規制する表示行為 | 医薬品等に関する広告で、名称、製造方法、効能、効果または性能に関する虚偽表示や誇大表示など添付文書や容器の記載事項で、未承認の効用や性能を記載することなど | 優良表示、有利表示などただし表示する対象に制限は無い。 |
違反行為の結果 | 措置命令 課徴金(利益の4.5%) 2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金(あるいはその両方) |
措置命令 課徴金(利益の3%) さらに措置命令に違反した場合は2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金 |
広告における規制は?気をつけるべきポイント!
上記のとおり、同じ広告表記に関する規制でも、薬機法と景表法はそれぞれ異なる目的から制限を加えており、より被害が大きくなりがちな医薬品等の広告に関しては薬機法で特に厳重に規制されています。
景表法では、広告対象が何であるかを問わず、上記のように優良誤認表示と有利誤認表示に該当しないようにする必要があります。
そして、広告対象が医薬品等である場合には、薬機法で規制されているような虚偽広告、そして誇大広告に当たらないよう表現を工夫しなければなりません。
したがって、広告を出す際には、まず景表法に抵触しないこと、そして広告対象が医薬品等である場合には、これに加えて薬機法に抵触しないことに留意しておく必要があります。
化粧品と薬機法
例えば、化粧品を例に考えてみましょう。
まずは、景表法の観点から、優良誤認表示と有利誤認表示はNGです。
その上で、薬機法の第1条に「医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品」を全て含めて「医薬品等」としていることから、薬機法の規制も及ぶこととなります。
そして、同法の第66条が適用されるので、その効果・性能に関して、虚偽または誇大な記事による広告表現がNGとなります。
薬機法で何が「虚偽」「誇大」なのかは、厚生労働省が出している各基準に従うことになります。
ここで、化粧品が具体的に何であるのかによって、基準が異なってきます。
例えば、医療用の白色ワセリンを保湿剤として用いることがあるかと思います。
この場合、医療用白色ワセリンは基礎化粧品のような役割を果たしているように見えますが、化粧品のカテゴリーではなく、医薬品になります。
そして、医薬品である場合には、承認を得るものであるかどうかによって、広告表現の範囲が異なってきます。
化粧品がよくあるBBクリームやファンデーション、口紅など、美化することを目的にするようなものである場合には、薬機法上の「化粧品」に該当し、化粧品の効能の範囲として厚生労働省の基準で定めらえている範囲の表現に止めなければなりません。
例えば、シャンプーでしたら、「頭皮を清浄にする」という表現はいいのですが、「フケをなくす」という表現は虚偽または誇大な表現となります。
また、「個人の感想です」(打ち消し表示と言われるものです)とつけることで表現が許されるようになるわけではないので、ご注意ください。
また、具体的な文字表現によらなくとも、写真などを対比させることによって(ビフォーアフターなど)効果を示すような表現も規制対象となりますので注意が必要です。
例えば、「〜を防ぐ」という表現が許容されていたとしても、「防ぐ」のを写真によって表現することができないので、適正広告から外れてしまいます。
写真の対比によってわかるのは「白くなった」とか「シミが消えた」とかの状態の明確な変化ですので、「防ぐ」という表現を超えてしまうのです。
参考:医薬品等広告に係る適正な監視指導について(Q&A)|厚生労働省
まとめ
商品を魅力的に伝える手段である広告ですが、その表現には様々な注意点が潜んでいます。
景表法に留意するだけでは十分ではなく、広告の対象が医薬品等に当たる場合には、薬機法の規制にも気をつけなければいけません。
それぞれの訴訟に進展した事例からわかるように、そもそも「医薬品」とは何であるのか、あるいは「広告」とはなんなのか、誰が「表示」した主体に当たるのかなど、複雑な理論が絡み合っていることが少なくありません。
したがって、お悩みの際はぜひ弁護士にお気軽にご相談ください。