リコール制度

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

 

リコールとは?

リコールを英語で表記すると「recall」となり、「呼び戻す」というような意味になります。

このような英語の意味から考えると、「製品の製造者が一度販売した製品を回収すること」がリコール制度の中心的な内容であることは間違いありません。

しかし、日本の法律上、「リコール」について明確な定義はなく、様々な製品について横断的にリコール制度を定めた法律はありません。

各種製品ごとに異なったリコール制度があり、それぞれ別の法律に根拠があることから、リコール制度の内容も製品ごとに異なることになります。

以下、主要な製品について、どのような法律でどのようなリコール制度が定められているか確認しておきましょう。

自動車

自動車自動車については、「道路運送車両法」にリコール制度が定められており、国土交通省が所管しています。

自動車メーカー等による自主的なリコール

自動車メーカー等が、自動車の設計・製作過程に基づく不具合を発見した場合、その不具合の状況・原因・改善措置・使用者への周知方法を届け出ることが求められます(道路運送車両法63条の3)。

自動車メーカー等が、不具合を把握していたにもかかわらず、この届出を行っていなかった場合は、1年以下の懲役または300万円の罰金を科される可能性があります。

自動車メーカー等及び国土交通省は、届出があった不具合を公表し、自動車メーカーにおいて改善措置を実施します。改善措置の実施状況は国土交通大臣への報告義務があり、報告を怠った場合には、30万円以下の罰金が科される可能性があります。

 

国土交通大臣の勧告によるリコール

自動車のリコールは、基本的には自動車メーカー等の自主的な届出によって行われますが、国土交通大臣は、自動車の設計・製作過程の不具合を把握した場合、自動車メーカー等に対して、必要な改善措置を講ずるよう勧告することができます(同法63条の2)。

自動車メーカー等がこのリコール勧告を無視した場合、国土交通大臣はリコール勧告に従わない旨を公表することができ、それでもなお自動車メーカー等がリコールを行わない場合は、リコールを命令することができます。

このリコール命令に違反すると、1年以下の懲役または300万円以下の罰金が科され、法人に対しても2億円以下の罰金が併科される可能性があります。

 

医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器

医療事業のイメージ画像

医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器については、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(医薬品医療機器等法)にリコール制度が定められており、厚生労働省が所管しています。

メーカーによる自主的なリコール

医薬品等の使用によって保健衛生上の危害の発生・拡大するおそれがある場合、メーカーは医薬品等の廃棄、回収、販売の停止、情報の提供、必要な措置をとらなければなりません(医薬品医療機器等法68条の9)。

メーカーはリコール対象製品を回収する場合は、回収に着手した旨と回収状況を厚生労働大臣に報告しなければなりません(同法68条の11)。

 

厚生労働大臣・都道府県知事によるリコール命令・強制リコール

保健衛生上問題がある医薬品等について、厚生労働大臣又は都道府県知事は、当該製品の廃棄・回収・その他公衆衛生上の危険の発生を防止するに足りる措置を採るよう、医薬品メーカー等に命じることができます(同法70条)。

この命令に違反した場合、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金のいずれか又は両方が科される可能性があり、法人に対しても1億円以下の罰金が併科される可能性があります。

また、不良医薬品等が出回ると、公衆衛生上極めて危険であることから、メーカーがリコール命令に従わない場合や緊急の必要がある場合、厚生労働大臣・都道府県知事・保健所を設置する市の市長又は特別区の区長は、職員に、対象製品の廃棄や回収等の必要な処分をさせることができます。

 

食品、添加物、天然香料、食器等の器具

製造業のイメージ画像食品、食品添加物、天然香料、食器等の器具については、「食品衛生法」にリコール制度が規定されており、厚生労働省が所管しています。

営業者が食品衛生法の規定に違反した場合、厚生労働大臣又は都道府県知事は、営業者に対し、その食品等を廃棄させたり、食品衛生上の危害を防止するために必要な措置をとることを命ずることができます(同法54条1項)。

また、食品等について、公衆衛生に危害を及ぼすおそれのある虚偽・誇大な表示・広告を営業者が行った場合は、内閣総理大臣又は都道府県知事が当該食品等の廃棄や食品衛生上の危害を防止するために必要な措置をとることを命ずることができます(同法54条2項)。

これらの命令に従わない場合、3年以下の懲役または300万円以下の罰金のいずれか又は両方を科される可能性があり、法人に対しても1億円以下の罰金が併科される可能性があります。

なお、まだ施行はされていませんが、平成30年6月13日に、改正食品衛生法が公布され、新たに食品リコール情報報告制度が創設されました。

このリコール情報報告制度により、営業者が食品衛生法に違反し又は違反のおそれがある食品等を自主的にリコールしようとする場合には、リコール情報を都道府県知事等に届け出なければならなくなりました。

 

ガス用品

ガス用品については「ガス事業法」にリコール制度が定められており、経済産業省が所管しています。なお、ガス用品は(6)の「消費生活用製品」にも含まれるため、消費生活用製品安全法の規制にも服することになります。

事業者が、ガス事業法に適合しないガス用品を販売し、一般消費者等の生命又は身体についてガスによる災害が発生するおそれがあると認める場合において、当該災害の拡大を防止するため特に必要があると認めるときは、経済産業大臣が当該ガス用品の回収やその他必要な措置をとることを命ずることができます(ガス事業法157条)。

この命令に違反した場合、一年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金のいずれか又は両方が科される可能性があり、法人に対しても1億円以下の罰金刑が併科される可能性があります。

 

電気用品

電気用品については、「電気用品安全法」にリコール制度が定められており、経済産業省が所管しています。なお、電気用品は(6)の「消費生活用製品」にも含まれるため、消費生活用製品安全法の規制にも服することになります。

事業者が電気用用品安全法に違反した製品を販売した場合、経済産業大臣は、危険防止のために特に必要があると認めるときは、事業者に対し、販売した製品の回収やその他必要な措置をとることを命ずることができるとされています(電気用品安全法42条の5)。

この命令に違反した場合は、1年以下の懲役もしくは100万円の罰金のいずれか又は両方が科される可能性があり、法人に対しても1億円以下の罰金刑が併科される可能性があります。

 

消費生活用製品

六法全書消費生活用製品については、「消費生活用製品安全法」にリコール制度が定められています。

「消費生活用製品」とは、主として一般消費者の生活の用に供される製品をいい、自動車、医薬品・医療機器、食品など、他の法律で規制されている製品を除く幅広い製品が含まれます。

事業者による自主的なリコール

同法は、事業者に対し、製品事故を防止するために、リコールを実施するよう努力義務を課しています(消費生活用製品安全法38条1項)。

また、事業者が重大製品事故が生じたことを知ったときは、内閣総理大臣へ当該製品の名称や型式、事故の内容等の報告義務あり(同法35条)、報告を受けた内閣総理大臣は、リコール情報を公表することとされています(同法36条)。

 

主務大臣によるリコール命令

消費生活用製品の欠陥により、重大製品事故が生じた場合や一般消費者の生命又は身体に重大な危害が発生するおそれがある場合は、主務大臣が事業者に対し、当該製品の回収やその他必要な措置をとるよう命ずることができます(同法39条)。

この命令に違反した場合、一年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金のいずれか又は両方を科される可能性があり、法人に対しても1億円以下の罰金が併科される可能性があります。

 

 

リコールにどう対処するか?

リコールに備える

リコール制度は製品ごとに根拠となる法律や所管官庁が異なり、制度の全体像を把握するのは難しいといえます。

したがって、以下のような事前準備が必要です。

安全基準・安全規則等の把握

自社の製造する製品に対し、どのような安全基準・安全規則等が適用されるのかをしっかり把握しておく必要があります。

安全基準・安全規則に違反すれば、製品のリコールにつながるだけでなく、ユーザーに対して製造物責任を負う事態にもなりえます。

 

対応マニュアルの策定

リコールの際、各種官庁への届出や報告が必要となる場合があり、これを怠ると、刑事罰が科されるおそれもあります。

法律で要求されているリコール手続きを把握し、対応マニュアルを事前に策定しておくことで、迅速かつ的確にリコールに対応できるようになり、法律違反のリスクを避けることができます。

リコールの際は、製造事業者や輸入事業者だけでなく、販売事業者や流通事業者の協力を得ることが必要となるため、これらの事業者との連携も考慮して対応マニュアルを策定する必要があります。

 

リコール費用の確保

リコールの際には、原因究明費用、修理・代替品費用、回収費用、販売停止期間中の経費など、多額の費用を要する可能性があります。

したがって、リコールの際に必要となる費用を確認し、リコール保険(生産物回収費用保険)の付保なども検討する必要があります。

 

リコールが発生した際の対応

リコール事案が発生した場合、損害の拡大を防止するためにも、迅速かつ的確な対応が必要となります。

事実関係の調査

リコールが必要となる事態が生じた場合、早急に事実関係の調査を行い、対象製品や被害状況を的確に把握する必要があります。

 

所管官庁等への報告

リコールの際、法律で所管官庁への報告が義務付けられている場合があり、速やかに所定の事項を報告しなければなりません。

報告を失念したり、法律上の報告期限を徒過すると、刑事罰のリスクもあります。

 

原因の究明・再発防止策の検討

リコールにより対象製品を回収した後は、直ちに原因究明を行い、欠陥製品の流通を阻止し、被害の拡大を防止する必要があります。

原因究明により、製品の欠陥が判明した場合は、再発防止策を速やかに検討し、消費者への注意喚起など、信頼回復への行動を速やかに行うべきです。

 

被害者への対応

対象製品の欠陥により、消費者が損害を被っている場合には、被害者への賠償問題が生じます。

事業者が負う法的責任の有無や程度を考慮して、適切な対応を検討しなければなりません。

 

 

当事務所の弁護士に相談するメリット

事務所の企業法務部は、業種ごとに特化した弁護士が所属しており、製造業種に特化した弁護士がサポートを行います。

紛争が発生した場合の迅速な対応はもちろんのこと、紛争が顕在化する前であっても、専門的な立場から危機管理体制の整備方法など必要なアドバイスを行います。

担当者や担当部署に対する研修なども対応しております。

 

 

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リコール制度は法的に検討しなければならない事項も多く、専門家のアドバイスを受けながら事前準備をしっかりと行っておく必要があります。

リコール対応でお困りの際は、ぜひ専門家である弁護士にご相談ください。

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