製造物責任の「通常有すべき安全性」が争点となった裁判例

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

弁護士製造物責任の欠陥においては、当該製造物が通常有すべき安全性を備えていたか否かが重要な争点となります。

以下、この点についての参考判例をいくつかご紹介します。

 

製造物について、通常予見される使用について注目された事案

資源ゴミ分別機械上腕部切断事件 平成14年10月31日 東京高裁

通常予見される使用形態とは、製造物の予定された適正な用途、使用態様のみならず、その製造物であれば通常合理的に予期、予見される用途、使用態様も含まれるものであり、使用者の誤使用であっても、通常合理的に予期、予見される使用形態であれば、製造物の欠陥の有無の判断に当たっては適正使用とみられることになる。

 

ピアノ防虫防錆剤液状化事件件 平成16年3月23日 東京地裁

裁判被告は、本件錠剤は、温度30℃以上、湿度80パーセント以上で、水蒸気の供給が常にあるという、ピアノの通常予見される使用環境とはいい得ない環境下での使用によってのみ液状化するものであって、欠陥はないと主張する。
確かに、・・・によれば、ピアノに適した環境は、温度が15℃から20℃まで、湿度が50パーセントから70パーセントまでであるとされていることが認められる。

しかしながら、他方において、・・・によれば、本件錠剤の液状化が問題となった地域周辺では、夏季においては、温度25℃以上、湿度80パーセント以上という環境になることも珍しくなく、たとえそれがピアノにとって適切な環境とはいえなくても、一般家庭において、常にピアノの設置環境を上記のような状態に保つのが困難であることは、経験則上明らかである。

本件錠剤は、アップライトピアノの内部という閉めきった風通しのない場所で使用するものであるから、たとえそれが液状化するためには、被告の主張するような前記認定の環境が必要であったとしても、それが通常予見される本件錠剤の使用環境でないものとは認められない。

 

 

製造物の使用者による損害発生防止の可能性があったかが注目された事案

資源ゴミ分別機械上腕部切断事件 平成14年10月31日 東京高裁

弁護士税理士本件機械は、控訴人X1(本件一般廃棄物処理業者)の注文により被控訴人Y(本件廃棄物再生処理業者)が組み立て、控訴人X1の工場に設置したものであり、控訴人X1は初めて一般廃棄物処理業に携わり、本件機械について専門的知識を有していなかったのであるから、なおさら被控訴人Yにおいて、控訴人X2(本件一般廃棄物処理業者の元役員)はじめ控訴人X1の従業員に対し、本件機械の仕様、性能、危険性について具体的、詳細に説明し、その危険性について警告をすべきである。

被控訴人Yが、これを怠ったため、控訴人X2は本件機械の仕様、性能、危険性について理解しないまま、本件機械が稼働中でも容易にスチール缶を取り出せると誤認して本件掃除口に手を挿入したものであり、控訴人X2の誤使用ではあるが、なお被控訴人Yにとって通常予期、予見され得る使用形態というべきである。

そして、スチール缶が選別機から漏れてアルミ選別機コンベア内に進入し、本件ローラーに付着しやすいということとあいまって、本件機械には製造物責任法に定める「欠陥」があったと認めることができる。

 

介護ベッド胸腹部圧迫死亡事件 平成19年2月13日 京都地裁

ギャッチベッドで背上げを行った際に利用者が胸部及び腹部に圧迫を受け、また、背上げを行ったままの状態で長時間その姿勢を保った場合に利用者がその身体に負担を受けることは明白な事実であるから(介護者は自分で試してみることにより容易に理解することができる。)、介護者が、たとえば、背上げを完了した後に利用者の座る姿勢、位置等を直したり、背上げをした状態で使用する時間を利用者の容体に応じて調整するなど、適宜工夫することにより、上記圧迫ないし負担を軽減することができるところである。

以上の次第で、原告らの・・・主張を採用することはできない。

 

 

製造物の特性が注目された事案

折りたたみ足場台脚部座屈傷害事件 平成18年11月30日 京都地裁

裁判所原告は、本件足場台の天板の上に立って作業を行っていたところ、これは、本件足場台の通常の使用方法であり、その際に突然、同足場台の脚が変形したのであるから、原告が本件足場台を使用していた時点で、同足場台に何らかの不具合があったと推認される。

そして、上記認定事実に加え、①・・・本件事故は、原告が本件足場台を購入してから約3年9か月後に発生しているが、同期間は、本件足場台が通常有する安全性が維持されてしかるべき合理的期間の範囲内であると考えられること、並びに、②本件足場台の形状からして、本件足場台の通常の用法以外の方法で使用されることがにわかに考え難い上、原告も、本件足場台を購入後、同足場台を通常の用法に従い使用していたと供述・・・及び陳述・・・しており、特段この供述ないし陳述の信用性を疑うに足りる証拠もないことからすると、原告が、同足場台を購入後、同足場台を通常の用法に従い使用していたと推認される一方で、被告Aが被告Bに本件足場台を納入した当時から、本件足場台に本件変形の原因となる不具合があったと推認されることを総合すれば、本件足場台には、欠陥及び隠れたる瑕疵があったと認められる。

製造物責任法(PL法)についてはこちらをお読みください。

 

 

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