薬機法違反とは?
どういった行為が薬機法違反となる?
薬機法違反を語るにあたって、まず薬機法がどのような法律であるのか、その簡単なイメージを共有したいと思います。
薬機法とは、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」のことで、薬や医療機器をはじめとする「医薬品等」について、その製造から販売などに関して幅広くルールを定めている法律です。
ここでいう「医薬品等」とは、薬機法(以下、薬機法の条文を引用するにあたって法文名は省略します。)の第1条に記載されているように、「医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品」を指しています。
さらに、例えば、「医薬品」など、それぞれの定義は、第2条に記載されています。
薬機法が目指しているのは、ここで記載のある「医薬品等」に関する、製造から消費者に届くまでの過程について、安全性を確保して国民の健康を守る、というところにあります。
そして、薬機法はこの医薬品等の安全性確保のために、医薬品等に携わる業者が製造販売等に際して踏むべき手順や、医薬品等に関する表示や広告など、医薬品を利用する私たちが安全に医薬品等を利用できるように、各種の規制を定めています。
また、この各種の規制がきちんと機能しているかどうかを、厚生労働大臣や都道府県知事をはじめとする諸機関に監視の役割を担わせています(第69条など)。
この各種の規制に違反することが、薬機法違反となります。
中でも広告表示規制に違反することは多くの方が関心を抱くところですが、それに限らず、薬機法には様々な罰則規定が設けられています。
薬機法違反の罰則
薬機法に違反すると行政機関からの指導だけでなく、罰則を科される可能性があります。
贈収賄
薬機法違反の罰則規定は、第83条の6から第91条までに定められています。
医薬品等の安全性や信頼性を大きく損ないかねない行為ほど罰則は重く科されており、最も重い罰則は「7年以下の懲役」で、登録認証機関(医薬品等が規定の基準に適合しているかどうかを認証する者)の役員や職員による収賄となっています。
基準に適合しているかどうかを審査する担当者が現金をはじめとする賄賂を受け取ることをいいます。
本来、安全性を確保するための存在である登録認証機関ですので、医薬品等の安全性や信頼性に対する打撃は計り知れないでしょう。
当然ですが、賄賂を贈る側も重く罰せられます(第83条の7)。
製薬会社などが登録してもらうために担当者に現金を渡したりすることはできません。
指定薬物の違反
収賄に次いで重く罰せられているのが、第83条の9に定める行為で、指定薬物(定義は第2条第15号にあります。
ざっくりまとめると、精神毒性を有するおそれが高く人体に危険を及ぼしうるもので、麻薬や覚醒剤等を除いたもの)の取り扱いに反した製造・輸入・販売等の行為を「業として」行うことが対象となります。
「業として」という言葉ですが、簡単にいうと、事業として行っているという意味合いで、同じような行為を何回、どれくらいの期間にわたって行っているのかがチェックされて、判断されます(青柳健太郎『薬事法・薬剤師法・毒物及び劇物取締法解説第20版』薬事日報社p86)。
また、指定薬物というものは、そもそも危険性の高い薬物で、取り扱い方法が第76条の4以下により規定されています。
その規定に違反して製造販売等を行うのは、それだけでも医薬品等の安全性・信頼性を損なう行為として罰則が科される対象です。
これを何度も繰り返し行うというのは、それ以上の危険な行為として重く処罰されることになります。
指定薬物の一覧は厚生労働省のホームページにて随時掲載されています。
参考:指定薬物一覧|厚生労働省
無許可製造、販売
次に重い処罰が科されるのは、第84条に列挙されている各行為で、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその両方が科されるものとなります。
まず、医薬品等は、その健康への影響力の大きさから、誰でも製造・販売していいわけではなく、国などの「然るべき機関」から許可を得ないとできません(第4条、第12条など)。
この許可の手順が踏まれることによって、「然るべき機関」が、施設や製品、資格者などに関してチェックを行い、安全性が確保されるということになります。
したがって、許可の手順を踏むことは医薬品等の安全性・信頼性を確保するための土台であり、その手順に違反すると重く処罰されます(第84条第1号、2号など)。
また、すでに危険性があり製造・販売が禁じられているものについて、禁止に従わず製造販売を行う行為も、同様に安全性と信頼性を大きく損なう行為で、重く処罰されます(第84条第18号、19号、20号など)。
広告表示違反、業務停止命令違反
次いで重い処罰を規定しているのは第85条で、安全性の点から制限が加えられていることに違反する行為が主に規定されております。
例えば、医薬品等に関する広告表示はその最たるもので、虚偽表示や誇大表示などはNGとされています(第66条、第85条第4号)。
なお、医薬品の承認を受けていなくとも、承認前の医薬品等に関する広告表示も制限対象であり(第68条)、これに違反することも同様に第85条の罰則が科されます(第85条第5号)。
広告表示の制限に従わなければならないのは、医薬品等の製造販売に携わる者に限られず、医薬品等の宣伝・広告をする者は誰であっても、この処罰に留意しなければなりません。
つまり、広告代理店といった会社もこの広告表示に違反しないように十分に注意しなければならないのです。
また、医薬品等の製造業者が、すでに薬機法などに違反していて、業務停止などの措置が命じられている場合には、その命令に違反することも、もちろん医薬品等の安全性と信頼性を損なうため、同条により処罰されます。
これらの行為は、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、あるいはその両方が科されるとされています。
ここまでのまとめ
ここまで解説した、第83条〜第85条に加え、第86条以下に規定している処罰対象を含めて、処罰の対象と対応する処罰について整理したのが下記の表です。
規制内容 | 罰則内容 | |
---|---|---|
83条の6 | 登録認証機関の役員または職員による収賄など | 7年以下の懲役など |
83条の7 | 登録認証機関の役員または職員に対する贈賄など | 3年以下の懲役 または250万円以下の罰金など |
83条の9 | 指定薬物の規制に反した所持や製造等を業とする行為 | 5年以下の懲役・もしくは500万円以下の罰金 またはその両方 |
84条 | 薬局開局に際しての許可、製造販売の許可等の規定の違反 毒薬の表示に関する規定の違反 製造販売禁止の違反 注意事項公示の違反 廃棄・回収措置の命令に対する違反 指定薬物の取り扱いに対する違反など |
3年以下の懲役・もしくは300万円以下の罰金 またはその両方 |
85条 | 販売方法の制限に対する違反 毒薬や劇薬の交付の制限に対する違反 広告表示の違反 薬機法違反に基づく業務停止命令に対する違反など |
2年以下の懲役・もしくは200万円以下の罰金 またはその両方 |
86条 | 薬局の管理等の規定に対する違反 薬剤師の設置に関する規定に対する違反 施設の使用禁止に対する違反 品質改善のための業務停止に対する違反など |
1年以下の懲役・もしくは100万円以下の罰金 またはその両方 |
86条の2 | 登録認証機関に関する業務停止命令に対する違反 | 1年以下・もしくは100万円以下の罰金 またはその両方 |
86条の3 | 職務上知り得た秘密の漏洩 | 6月以下の懲役 または30万円以下の罰金 |
87条 | 業務の休止・廃止の届出に対する違反 医薬品等に関する変更の届出に対する違反 検査命令に対する違反 治験の依頼に関する違反など |
50万円以下の罰金 |
88条 | 適合証の返還に対する違反 「薬局」の名称の使用に対する違反など |
30万円以下の罰金 |
89条 | 登録認証機関による報告義務違反など | 30万円以下の罰金 |
91条 | 財務諸表の設置に対する違反など | 20万円以下の罰金 |
なお、第90条に定める行為については、法人の職員や役員だけではなく、法人自体にも罰金刑が科されるものです(両罰規定といいます)。
例えば、次のような行為が対象となっています。
- 指定薬物の取り扱い規定に反した所持や製造等を業として行うこと
- 医薬品等の承認の手続きに違反した製造販売
- 広告表示制限に対する違反
そして、薬機法違反に該当するとされた場合には、上記の罰則規定が適用されるほか、許可の取り消しや業務停止などの命令が出されることもあります(第75条)。
薬機法違反の判例
前述のとおり、薬機法違反には様々なものがあり罰則の内容も幅がありますが、いくつか争いとなった事例を挙げたいと思います。
まずは、最判令和3年6月28日(平成30年(あ)1846 薬事法違反被告事件)が記憶にも新しいのではないかと思います。
参考:最高裁判所判例集|裁判所
この事件では、とある処方薬についての広告表示規制違反が問われた事案ですが、CMなどの純粋な「広告」とは異なり、掲載したのは学術論文であることが主たる問題となっていた事案です。
最高裁は、
「高血圧症治療薬を用いた臨床試験の補助解析等の結果を取りまとめた学術論文を、専門的学術雑誌に投稿し掲載させたなどの本件事実関係(判文参照)の下では、同論文の同雑誌への掲載は、特定の医薬品の購入・処方等を促すための手段としてされた告知とはいえず、薬事法(平成25年法律第84号による改正前のもの)66条1項の規制する行為に当たらない。」
と判断され、無罪となりました。
この事案で争われたように、「広告」、「表示」など、その言葉の意味を把握することは簡単ではないので、今後も注意が必要とされるところです。
また、東京地判平成17年5月2日(平成16特(わ)4282 薬事法違反)ですが、医薬品等に該当するクリーム等(アトピー性皮膚炎に効果があるもの)を、医薬品であると認識を持たずに、無許可で販売していた事案です。
この事案では、被告人は、医薬品だと思わず、したがって許可も不要だと思っていたため「故意」がないと主張していましたが、当該クリームがアトピー性皮膚炎に有効であると認識していたことと、医薬品の販売には何らかの許可等が必要であると認識していたことをもって、「故意」があると判断されました。
このように、刑事事件で問題となる「故意」ですが、単に「知っていた・知らなかった」では分けきれない複雑な問題を含んでいるといえるでしょう。
基本的に法律を知らなかったということで無罪となることはありません。
薬機法に違反しないためのポイント
ガイドラインに注意を図る
薬機法には様々な規定があり、それぞれに対する違反を防ぐには、厚生労働省が出している各種ガイドラインの内容をしっかり把握し、社内のマニュアルなどに反映させることが有効です。
厚生労働省が出しているガイドラインも多岐にわたり、量も少なくなく、容易ではないですが、下記の3点を念頭におくことが助けとなるのではないでしょうか。
- ポイント① 薬機法が、医薬品等が安全に利用されることを一番の優先事項にしていること
- ポイント② 自分たちが薬機法のフローのどの位置にいるのかを意識すること
- ポイント③ 業務内容が、医薬品等を利用者に届けるまでのプロセスの中でどの部分にあたるものなのかを意識すること
専門家にあらかじめ相談する
薬機法とそのガイドラインは難しい言葉が使用していたりすることもあり、自社だけではどうしても解釈や判断に迷うことも多くあります。
そのような際は早めにリスク回避のために専門家を頼るというのが効果的です。
具体的には、専門家である弁護士に相談して、予定している広告や商品名、パッケージが薬機法に違反していないか、チェックを受け、アドバイスをもらうというものです。
薬機法に違反してしまったら?
前述のように、薬機法は、医薬品等が安全に利用されるために、利用者に届くまでのプロセス全体にわたってルール整備をしています。
そして、薬機法違反を回避するためには、そのフローと、法律が定める規定の意味するところをしっかりと理解する必要がありますが、それは容易なことではありません。
したがって、薬機法に違反してしまうことも、起こりうる事態です。
薬機法の定める罰則や、業務停止命令などが適用された場合には、その結果は重く、組織や個人に大きく影響します。
しかし、何も出来ず判決を待つだけ…という状態ではなく、まだまだ改善や再発防止のために出来ることはありますので、速やかに法律を専門とする弁護士にご相談ください。