会社で暴力を振るった社員をクビにできる?対処法を弁護士が解説

執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

保有資格 / 弁護士・MBA・税理士・エンジェル投資家

社内で暴力事件が発生しました、どうしたらいいですか?

粗暴な社員の対応に困っています、辞めてもらうことは可能?

従業員同士の喧嘩で会社が責任を取る必要がありますか?

デイライトの企業法務部・刑事事件チームにはこのような企業内の犯罪に関するご相談が多く寄せられています。

会社内での傷害・暴行・喧嘩のポイントと法的対応について、解説するので参考にされてください。

会社での暴力の種類

殴る・蹴るなどの暴力で怪我を負わせる傷害

傷害とは、他人の身体の生理的機能を毀損することをいいます。

会社内の傷害事案の典型は、従業員が他の従業員に対して殴る・蹴るなどの暴力を加えて、怪我を追わせてしまった場合です。

なお、傷害の結果、相手が死亡した場合は傷害致死罪が成立します。

傷害罪の法定刑は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金です(刑法第204条)。

傷害致死の法定刑は、3年以上20年以下の懲役刑となっています(刑法第205条)。

 

物を投げつける、胸ぐらをつかむなどの暴行

暴行とは、他人の身体に向けられた違法な有形力の行使をいいます。

会社内の暴行事案の典型は、上司が部下を叱責する際に、頭を叩く、物を投げつける、などが挙げられます。

また、従業員が同僚の従業員と口論になって、胸ぐらをつかむ、取っ組み合いとなる、なども挙げられます。

暴行罪が成立するのは、暴行された被害者が、怪我を負わなかった場合です。

怪我を負った場合には、暴行罪ではなく、傷害罪が成立します。

暴行罪の法定刑は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金です(刑法第208条)。

 

同僚同士の喧嘩

例えば、従業員同士が相手を罵倒したり、口論になったりすることがあります。

このような場合、通常は上記の傷害罪や暴行罪は成立しません。

しかし、犯罪が成立しないとしても、ハラスメントとなれば、後述するように民事の損害賠償請求などのリスクがあります。

したがって、口喧嘩であっても、企業としては対応を検討すべきです。

なお、従業員が他の従業員に対して、一方的に殴る・蹴るなどの暴行を加えるのではなく、お互いに暴行を加え合うケースもあります。

この場合は、双方ともに上述した傷害罪や暴行罪が成立する可能性があります。

また、相手が暴行を加えてきた際に、やむなく反撃した場合、正当防衛が成立する可能性があります。

 

 

暴力事案が発生した場合に会社が取るべき対応

暴力事案が発生した場合、してはならないことは「放置すること」です。

会社は法的な責任だけでなく、社会的な責任を負っています。

そのため、具体的な状況に照らして適切な対応を取る必要があります。

会社は取るべき対応としては、以下のものが考えられます。

暴力事案が発生した場合に会社が取るべき対応

状況の把握

まず、「何が起きているのか」を正確に把握するため、関係者から事情聴取するなどの情報収集がポイントとなります。

以下、事情聴取の項目について一例を挙げます。

被害者から

被害の有無・程度、加害行為の具体的な内容(いつ、どこで、どのような行為があったか)、加害者との関係、目撃者の情報、現在の心情(処罰意思、一緒に仕事を続けていけるか)など

加害者から

加害行為の具体的な内容(いつ、どこで、どのような行為を行ったのか)、動機(なぜそのような行為を行ったのか)、被害者との関係、目撃者の情報、反省の有無・程度など

目撃者から

加害行為の具体的な内容(いつ、どこで、どのような行為があったか)、被害者との関係、加害者との関係など

 

さらなる被害の防止

加害者の恨みなどが大きい場合、被害者に対してさらなる暴行が加えられる可能性があります。

したがって、被害者と加害者を接触させないようにすることが基本的な対応です。

例えば、加害者に自宅待機命令を出したり、被害者に自宅で静養してもらうなどの配慮が必要でしょう。

 

損害賠償義務の検討

被害者の怪我や精神的苦痛の程度を把握し、損害額を算出します。

損害の項目としては、治療費、入通院費、休業損害、逸失利益、慰謝料などが考えられますが、これらについては人身傷害に詳しい弁護士に相談しなければ算出は難しいと思われます。

 

刑事告訴の検討

被害者の処罰感情が高い場合や加害者の反省の状況によっては、刑事告訴の検討が必要です。

 

懲戒処分等の検討

傷害と暴行については加害者に対し、喧嘩については双方とも懲戒処分の検討が必要となります。

もっとも、懲戒処分は従業員に対する不利益処分であり、適切に実施しないと処分の有効性を巡って争いとなるなど、訴訟リスクがあります。

したがって、懲戒処分については、労働問題に精通した弁護士に相談しながら進めていかれることをお勧めしています。

 

 

暴力を振るった社員への懲戒処分

懲戒処分と一口に言っても戒告、譴責、減給、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇など様々なものがあります。

では、暴力をふるった社員に対していかなる処分を行ったほうが良いのでしょうか。

ここでは、暴力の種類ごとに検討すべき懲戒処分を解説します。

上司から部下への暴力の場合

上司から部下への暴力に対しては特に厳正に対処すべきです。

上司は組織の模範となるべき存在であり、それだけ重い責任があるからです。

暴力の内容にもよりますが、戒告・譴責処分等は軽すぎると考えられます。

少なくとも出勤停止以上で、部下が怪我をしていれば懲戒解雇もあり得ます。

また、懲戒処分と合わせて降格(例:部長→課長など)や転勤、配置転換等も検討すべきでしょう。

ただし、懲戒処分は従業員に対する不利益処分であるため、厳格な手続きが求められています。

手続きの適正さを欠けば無効となることがあるので注意しましょう。

 

部下から上司への暴力の場合

部下から上司への暴力のケースでは、部下側に言い分がある場合が多いです。

例えば、上司から罵倒された、理不尽な扱いを受けた、などです。

理由が何であれ、暴力が許されるわけではないので懲戒処分を検討することになりますが、上司側の落ち度が大きければ戒告、譴責等の軽い処分を検討することとなります。

なお、軽い処分でも、懲戒処分は従業員に対する不利益処分であるため、厳格な手続きが求められています。

手続きの適正さを欠けば無効となることがあるので注意しましょう。

 

同僚への暴力の場合

同僚への暴力の場合、喧嘩の要素が強いのが特徴です。

そのため、暴力を振るわれた被害者側にも何らかの落ち度があるのが典型的です。

被害の程度にもよりますが、被害者側の落ち度もあるケースでは、戒告、譴責等の軽い処分を選択することが多いです。

他方で、被害者が重症を負っている場合、懲戒解雇を選択することも検討しましょう。

懲戒処分は従業員に対する不利益処分であるため、厳格な手続きが求められています。

手続きの適正さを欠けば無効となることがあるので注意しましょう。

 

 

懲戒処分の進め方

会社が懲戒処分を行う場合の進め方(処分の流れ)は次のとおりです。

懲戒処分の進め方

以下、解説します。

①就業規則が有効かを確認

もし会社に有効な就業規則が存在しない場合は、懲戒処分に関するルールそのものが存在しないということですので、会社が従業員に対して懲戒処分をすることは難しくなります。

まずは自社に有効な就業規則があるかを確認しましょう。

②懲戒処分のルールにあてはまる行為をしたかを確認

懲戒処分のルールは、「従業員がこういうことをした場合は、こういう懲戒処分にする」という形で書かれているのが普通です。

暴力行為に該当するルールの有無と内容を確認しましょう。

③適切な社内手続きを実施

会社が懲戒処分を行うためには、いくつかの社内手続きを実行する必要があります。

会社によっては、就業規則に懲戒処分の社内手続きについてのルールが書かれていることがあります。

例えば、就業規則の中に「懲戒処分は、社員に懲戒処分の理由を開示して弁明の機会を与えたうえで、懲戒委員会で決定する」のようなルールが書かれているときは、会社は、このルールにしたがって手続きを実行しなければなりません。

また、就業規則に懲戒処分の社内手続きが書かれていない場合でも、会社は、懲戒処分をする前に従業員に「弁明の機会(べんめいのきかい)」を与えるようにしましょう。

「弁明の機会」とは、会社から従業員に対し「会社はこういう理由であなたを懲戒処分にしようとしています」と伝えたうえで、従業員が会社に対して自分の言いたいことを言える場を与えることをいいます。

④妥当な処分を実施

会社が行う懲戒処分は、懲戒処分の対象となった従業員の行為の重さとバランスの取れたものでなければなりません。

例えば、被害者にも落ち度があり、かつ、暴力も軽いものであった場合に懲戒解雇すると、無効となるリスクがあります。

会社が上記①から④までの要件を守らずに従業員に対する懲戒処分を行うと、その懲戒処分が違法になることがあります。

懲戒処分が違法になると、従業員から訴訟を提起されたり損害賠償を請求されたりすることもありますので、懲戒処分は慎重に行いましょう。

実際に会社が上記①から④までの要件を守りながら懲戒処分を行うには、過去の裁判例などを踏まえた法律的な判断が必要なこともあります。

そのため、懲戒処分をする前に労働法に詳しい弁護士のアドバイスを求めることをお勧めいたします。

 

 

暴力事案の会社の責任

企業内で暴力事案が発生した場合、基本的に刑事責任は、当該暴力行為を行った加害者本人だけが負います。

しかし、以下のとおり、会社は、被害者に対して民事上の賠償義務や行政処分を受ける可能性があります。

民事責任〜使用者責任〜

民法は、会社などの使用者に関して、被用者(労働者)が第三者に損害を与えた場合の賠償義務を規定しています(民法715条1項)。

これを使用者責任といいます。

使用者等の責任
第715条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

使用者責任は、会社は事業を営むことで利益を上げている以上、それに関連して被害を被った者に対して、一定の要件のもとに賠償させることが公平であるという考えから認められたものです。

使用者責任は、条文に「事業の執行について」と規定されていることから、暴力行為と事業との関連性が必要とされています。

したがって、例えば、従業員が会社外で、休みの日に、交通事故を起こして、その相手が偶々他の従業員だったような場合、事業性がないと考えられるため会社は使用者責任を負いません。

しかし、裁判では、事業性が広く認められる傾向にあるため、会社の外であったとしても、状況によっては使用者責任が認められる場合があります。

使用者責任の成否については、具体的な個々の状況によって判断することになります。

 

民事上の責任 〜安全配慮義務違反〜

会社内で暴力事案が発生すると、会社は被害者の従業員に対して、安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。

会社は従業員と雇用契約を締結しています。雇用契約上の付随義務として、企業は従業員に対して、安全配慮義務があると考えられています。

会社内で暴力事案が発生すると、その安全配慮義務の違反の有無が問題となります。

そして、この義務に違反したと評価できる場合、会社は被害者に対して、債務不履行責任として、損害を賠償する義務があります。

 

行政処分

会社におけるパワハラ防止を会社に義務付ける法律が2019年5月に成立し、会社にはパワハラの防止措置を講じる義務が課せられました。

したがって、会社内の暴力事案がパワハラに該当する場合、会社がその防止措置を講じていたかが問題となります。

なお、この義務に違反した場合、企業名の公表の可能性があります。

 

 

暴力事案の予防法務

暴力事案の一番のポイントは、その発生を予防することです。

ここでは、予防方法について解説します。

教育研修

傷害、暴行、喧嘩などは、従業員のハラスメントに対する意識の低さが原因となって生じます。

そのため、暴力事案の予防は、ハラスメントについての従業員への教育や研修受講が効果的です。

講師については、労働事件に詳しい弁護士などにお願いされるとよいでしょう。

 

相談窓口の設置

風通しが良い組織は、暴力事案が発生しにくい傾向です。

「何でも相談できる体制」を整備しておくことは、暴力事案の予防につながると考えられます。

当法律事務所では、ハラスメントに精通した弁護士や社会保険労務士などを企業の外部相談窓口として設置する方法を提案しています。

問題に対応できる専門家を相談窓口として設置して、従業員に周知することで、ハラスメントなどがあった際、相談しやすくなります。

また、専門家が適切に対応するため、最悪の事態に発展することを防止できる可能性があります。

 

採用のポイント

暴力事案を起こす問題社員対策として、最も効果があるのは、そもそも「問題社員を採用しない」ことです。

ただ、採用面接時に問題社員であるか否かを見抜くことは容易ではありません。

一つの方法としては、職歴に注意することです。

過去、転職の回数が多く、就労している期間も短い場合、前の職場で何らかのトラブルを起こした可能性があります。

職歴を見て、気になる場合は、面接時に前の職場を退職した理由などを尋ねてみるのもよいでしょう。

 

 

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まとめ

以上、会社内の暴力事案の特徴や対応方法について解説しましたが、いかがだったでしょうか?

暴力事案については、有事のときの迅速な対応が必要です。

また、そもそも暴力事案を発生しないための社内体制の整備が重要となります。

これらの対応や予防については、上記のとおり、労働事件や人身傷害事故に精通した弁護士のサポートが効果的だと考えられます。

当法律事務所には、労働問題に注力する弁護士のみで構成される労働事件チームや人身傷害事故に注力する弁護士で構成される人身障害部などがあり、複数の弁護士が連携して企業をサポートしています。

会社内の暴力事案対応やその予防については、当事務所までお気軽にご相談ください。

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