株主総会の委任状とは、株主が自分の代わりに代理人を株主総会に出席させて議決権の行使を任せるために必要な文書です。
株主総会で代理人による議決権行使する場合は、原則として「代理権を証明する書面」となる委任状を会社に提出しなければならないことが定められています(会社法第310条第1項)。
このページでは、株主総会の委任状とは何か、書き方や作成上の注意点などについて弁護士が解説いたします。
ひな形の無料ダウンロードも可能です。ぜひともご一読ください。
株主総会の委任状とは
株主総会の委任状とは、株主が自分の代わりに代理人を株主総会に出席させて議決権の行使を任せるために必要な文書です。
この委任状は、代理人に正当な代理権があることを証明するために株主又は代理人から会社に提出されます。
会社法上、株主総会での代理人による議決権行使の場合には、原則として「代理権を証明する書面」を会社に提出しなければならないことが定められています(会社法第310条第1項)。
株主総会の委任状は、この「代理権を証明する書面」に当たります。
第三百十条 株主は、代理人によってその議決権を行使することができる。この場合においては、当該株主又は代理人は、代理権を証明する書面を株式会社に提出しなければならない。
株主総会の委任状のひな型をダウンロードする
株主総会の委任状について具体的に見ていきましょう。
株主総会の委任状は、株主が作成する場合もありますし、予め会社側でフォーマットを作成して株主に提供する場合もあります。
このページをご覧の方の中には、株主や会社の立場で、株主総会の委任状を作成しようとされている方も多いと思います。
ここでは、そのような方々に向けて、株主総会委任状のひな型(テンプレート)を作成して提供しています。
弁護士の目で丁寧に作成されていますので、ぜひお役立てください。
定時株主総会の委任状のテンプレートはこちらから
臨時株主総会の委任状のテンプレートはこちらから
株主総会の委任状の書き方
続いて、ひな型を元に株主総会の委任状を作成するに当たっての注意点やポイントを解説していきます。
①文書名の明示
まず、文書のタイトルとして、「定時株主総会委任状」または「臨時株主総会委任状」と記載します。
単に「委任状」とすることでも問題ありませんが、タイトルから株主総会の種類が判別できるようになるため、株主総会の種類まで書くことをお勧めします。
②会社名・代理人名の表示
次に、本文に入ります。
まず、「株式会社●●の株主である私は、〜」と、会社名を正しく表示します。
(ひな型では前株になっていますが、後株の場合には修正して利用してください。)
続いて、「〜●●氏(住所:●●)を代理人と定め〜」と、代理人を指名します。
単に代理人氏名のみでは同姓同名の別人と区別がつかないことになりますので、代理人の住所などを記載して特定するのが望ましいです。
なお、会社によっては、代理人資格に制限を設けている場合がありますので、注意が必要です。
特に典型的なのが、代理人自身も株主である必要がある場合です。
そこで、代理人が株主である場合には、それを明示するために、ひな型のように「同社の株主である」と記載するのが一般的です。
代理人の制限については、後述の「・株主総会の委任状の「代理人」とは」でも説明していますのでご覧ください。
③委任事項の明示
次に、具体的な委任事項を明示します。
会社法上、必ず株主総会ごとに「代理権の授与」が必要とされています(会社法第310条第2項)。
そのため、株主総会の委任状も、株主総会ごとに作成が必要であり、委任状には必ず対象となる株主総会を指定する必要があります。
具体的には、「●年●月●日開催の株式会社●●の臨時株主総会(その継続総会又は延会を含む。)」または「●年●月●日開催の株式会社●●の定時株主総会(その継続総会又は延会を含む。)」といった記載になります。
その上で、議題ごとに賛否を株主が指定できるように、「次の通り議決権を行使すること(賛否については○印で表示)。」としています。
なお、仮に、株主が議題ごとの賛否を指定せずに代理人に一任する場合には、「〜〜に出席し、議決権を行使すること。」とだけ記載して、次の④で説明する議案ごとの議決権行使指定の記載を削除したシンプルな書式にすることも可能です。
④議案ごとの議決権行使指定の記載
続いて、予定されている議案ごとに、賛成・反対を指定します。
議案番号やタイトルは、株主総会招集通知の記載に合わせるようにしましょう。
その上で、「賛成・反対」のいずれかに○印をつけます。
なお、仮に○印をつけ忘れてしまうと、次の⑤の記載によって、代理人に賛否を一任することになりますので注意しましょう。
⑤その他の事項の一任
株主総会では、総会当日に議決権行使が突発的に生じる場合もあります。
そのような事項についてまで、予め賛否を指定しておくことは現実的ではありませんので、この記載のように、代理人に一任しておくことが一般的です。
また、各議案の賛否に○印を記載していない場合にも、代理人に決定を一任する記載になっています。
⑥委任年月日と株主の表示
最後に、委任状を作成した年月日と、株主について表示します。
株主については住所も記載して株主を特定できるようにしましょう。
株主本人が作成したことを示すために、押印も必要です。
なお、氏名部分が自筆署名であれば、法的には押印までは必須ではありませんが、委任状の証明力を高めるために押印を必須とすることをお勧めします。
⑦その他
以上の①から⑥で一般的な株主総会委任状は完成です。
ただし、会社によっては、代理権を証明する方法(委任状に関する事項も含まれます)について独自の制限を設けている場合があります(会社法施行規則第65条第5号)。
独自の制限やルールが設けられていないかを予め確認の上、必要に応じて委任状に反映する必要がありますので注意しましょう。
例えば、会社によっては、委任状に株主の実印が押印されていること、及び、印鑑登録証明書を添付することを要求する場合があります。
この場合には押印欄には実印を押す必要がありますので気をつけましょう。
第六十三条
五 法第三百十条第一項の規定による代理人による議決権の行使について、代理権(代理人の資格を含む。)を証明する方法、代理人の数その他代理人による議決権の行使に関する事項を定めるとき(定款に当該事項についての定めがある場合を除く。)は、その事項
株主総会委任状のよくあるQA
ここでは株主総会委任状について、よく相談をいただくテーマについて解説します。
株主総会の委任状の「代理人」とは
株主総会委任状の「代理人」とは、本来株主だけの権利である株主総会での議決権を、株主の代わりに権利行使できる立場にある人で、株主からその権利(代理権)を与えられた人のことです。
この「代理人」とは、具体的にはどのような人でしょうか。
本来は、株主が望めば、基本的に誰でも代理権を授与して代理人に指定することができます。
しかし、会社は、株主総会を円滑に運営するために、代理人の資格について合理的な制限を設けることができるとされています(会社法施行規則第63条第5号)。
典型的には、代理人自身も株主であることが必要とされることが多いです。
具体的には、定款において、「株主は、当会社の議決権を有する他の株主を代理人として、その議決権を行使することができる」などと定めることが多いです。
ただし、この場合でも、株主が法人である場合にその従業員を代理人として指定する場合には、従業員が株主である必要はないとされています。
第六十三条
五 法第三百十条第一項の規定による代理人による議決権の行使について、代理権(代理人の資格を含む。)を証明する方法、代理人の数その他代理人による議決権の行使に関する事項を定めるとき(定款に当該事項についての定めがある場合を除く。)は、その事項
なお、会社は他にも、株主ごとの代理人の人数(会社法第310条第5項)、代理権を証明する方法、その他代理人による議決権に関する事項(会社法施行規則第63条第5号)についても予め定めて制限することができるとされています。
代理人欄が空欄の場合はどうなる?
代理人欄が空欄の状態で作成され、会社に提出された場合には、その委任状に効力はあるのでしょうか。
このような空欄のある委任状は、白紙委任状と呼ばれるものです。
白紙委任状は、それを作成した株主の意思を合理的に推測して、それに沿った効力を発生させるのが基本的な考え方です。
代理人欄が空欄のまま会社に委任状が提出された場合、株主は、その委任状の提出を受けた会社において、どのような記載をするか(どのような代理人を立てるか)を一任していると考えるのが合理的と思われます。
そのため、代理人欄が空欄の委任状も、基本的に有効で、会社が自由に代理人を指名できることになります。
もっとも、委任状の有効性については、ケースバイケースでの検討が必要です。
また、その判断を誤ってしまうと、将来、株主総会決議が取り消されてしまうなどの原因にもなりかねません。
白紙委任状の有効性や効力について疑義がある場合には、判断を急ぐことなく、弁護士に確認して慎重に対応することが重要です。
株主総会の委任状を出さないとどうなる?
株主が委任状を提出しない場合、株主は議決権の代理行使が認められないことになります。
この場合、株主本人として議決権を行使する必要がありますので、株主総会に出席できない株主には議決権行使の機会がなくなってしまうことになります。
ただし、株主総会に出席できない株主でも、書面投票制度(会社法第311条)や、電子投票制度(会社法第312条)が採用されている会社では例外的に議決権行使が可能になります。
第三百十一条 書面による議決権の行使は、議決権行使書面に必要な事項を記載し、法務省令で定める時までに当該記載をした議決権行使書面を株式会社に提出して行う。
第三百十二条 電磁的方法による議決権の行使は、政令で定めるところにより、株式会社の承諾を得て、法務省令で定める時までに議決権行使書面に記載すべき事項を、電磁的方法により当該株式会社に提供して行う。
株主総会委任状をメールで送信しても有効?
株主総会の委任状は、原則として書面での提出が必要です。
もっとも、会社の承諾を得た場合には、電子メール等の電磁的な方法による提出も可能とされています(会社法第310条第3項、会社法施行令第1条第1項第6号)。
第三百十条
3 第一項の株主又は代理人は、代理権を証明する書面の提出に代えて、政令で定めるところにより、株式会社の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。この場合において、当該株主又は代理人は、当該書面を提出したものとみなす。
第一条 次に掲げる規定に規定する事項を電磁的方法〜〜〜により提供しようとする者〜〜〜は、法務省令で定めるところにより、あらかじめ、当該事項の提供の相手方に対し、その用いる電磁的方法の種類及び内容を示し、書面又は電磁的方法による承諾を得なければならない。
〜〜〜
六 法第三百十条第三項(〜〜〜)
まとめ
このページでは、株主総会の委任状について、作成方法や、注意点について見てきました。
株主にとって株主総会での議決権は大変重要な権利です。
議決権の代理行使を活用すれば、総会当日に参加できない場合にも、この権利を行使することができます。
そのために、株主総会の委任状の作成は欠かせませんので、ぜひ、このページをよく読んで適切に対応するようにしましょう。
委任状についての不備は、議決権行使の不備に繋がり、最悪の場合、株主総会決議が将来取り消されてしまうことにも繋がりかねません。
もし委任状についてお悩みのことがあれば、できる限り弁護士へ相談することをお勧めします。
デイライト法律事務所は、株主総会の委任状の作成や確認など、株主総会に関する各種対応について、多くの実績を有しています。
株主総会の委任状に関するお悩みをお持ちの会社の方は、ぜひ当事務所の弁護士までご相談ください。