ベンチャー法務におけるドラッグアロングについて、当事務所ベンチャー法務チームの弁護士が解説します。
ドラッグアロング(Drag Along)とは
ドラッグアロングとは、投資家が他の株主の持ち分も合わせ第三者に売却することを求める権利をいいます。
ベンチャー法務においては、投資家の持ち分だけではシェアの問題から売却が難しくなることが多く、このリスクをヘッジするために他の株主(主に経営陣)のシェアを同時に売却させることを求めるときに行使するのが典型です。
ドラッグアロングは、米国シリコンバレーでは一般的ですが、日本ではそれほど普及していません。
しかし、近年、日本でもIPOを目指すベンチャーが増え、投資家が投資をする際に、このドラッグアロング条項を要求するケースが見られるようになってきました。
そこで、ここでは、このドラッグアロングのポイントについて、解説します。
なお、このドラッグアロングのほか、希薄化防止条項におけるフルラチェット、優先回収権の3つをつけると、投資家はかなり強くなります。
フルラチェットや優先回収権についても、コラムに掲載していますのでくわしくはそちらをごらんください。
問題の背景
ベンチャーへの投資は、他の投資と比べて、リスクがあります。
特に、シードやアーリーステージにおける投資は、リターンがまったくないことも多く、ハイリスクといえます。
このようなハイリスクを背負って、投資をする以上、投資家としては、起業家にIPOを目指して欲しいと考えています。
また、起業家も、投資してもらう際、投資家に対して、「IPOを目指します!」といって説得することが典型です。
ところが、時折り、起業家の中に、事業が軌道に乗って生活が安定してくると、心変わりして、面倒なIPOを回避したいなどと言い出す方もいます。
このようなことを簡単に言い出されてしまっては、投資家としてはたまったものではありません。
そのため、投資家としては、起業家や他の株主も巻き込んで、M&AによってEXITを強制できる権利を持ちたいと考えます。
このような背景から登場したのがドラッグアロング条項です。
ドラッグアロング条項の中身
ハイリスクを背負うベンチャー投資家にとって、ドラッグアロング条項のニーズがあるとしても、投資家の気分しだいで、いつでも株式を勝手に売却されてしまうのは起業家に酷です。
また、このような不安定な状況では、起業家が会社を大きくしようというインセンティブに悪影響を及ぼすおそれもあります。
したがって、「どのような場合にドラッグアロング権が発動されるか」について、合意をしておくことがポイントです。
例えば、以下のような条件です。
・◯年◯月◯日までにIPOを申請していない場合
・◯億円以上の買収の申し入れがあった場合
・◯◯という目標を達成できなかった場合
ドラッグアロングの導入のポイントについて
ドラッグアロング条項は、株主間の合意で定めておくことが多いようです。
※日本では、税務上の問題等から、株主間の契約で定めていた方が安全と言われています。
以下、条項例です。
【条項例】
第◯条 買取請求権
次の各号のいずれかに該当する場合において、投資者が本会社の株式の買取を請求したときは、経営株主は当該株式を自ら買い取るか、又は、第三者に当該株式を買い取らせる義務を負う。
①本会社が上場の要件を満たしているにもかかわらず、上場の申請を行わないとき。
②本会社に対して、◯億円以上の買収の提案があったにもかかわらず、会社が当該買収に応じないとき。
③経営株主が本合意書に違反したとき。
④経営株主が合意した内容と事実が異なることが判明したとき。
2 前項の買取価格は、次の各号のうち、最も高い価額とする。
①投資者の取得価格
②投資者及び経営株主の双方が指定する監査法人等の評価額
③投資者及び経営株主が合意する価額
上記はあくまで一例です。
具体的な条項は、株主の状況、ベンチャーの状況等について異なりますので、合意書の作成は、ベンチャー法務にくわしい弁護士に依頼されることをお勧めします。
というのも、ドラッグアロングについては、弁護士等の法律家でも内容を把握している専門家は極めて少ないと思います。
ちなみに弊所には、多数の弁護士が在籍していますが、「ドラッグアロング条項」と言って内容を理解できるのはベンチャー法務チームの弁護士だけです。
また、ドラッグアロングは、上述したとおり、投資家、起業家双方にとって、重大な影響を及ぼす権利です。
したがって、合意書作成を弁護士に任せるだけではなく、条件については、投資家、起業家の両者がよく話し合いをして、共通認識を持っておくことがポイントです。
タグアロング(Tag Along)とは
ドラッグアロングと似ている用語で、タグアロングというものがあります。
タグアロングとは、共同売却権のことです。
例えば、起業家や、企業に大きな影響力を与えている大株主などが、自分の株式を売却すると、企業価値に悪影響が出ることがあります。
このようなリスクに備えて、特定の株主が株式を売却する際、同条件で買手に売却する権利を持つことを予め合意しておけば、被害を最小限に抑えることができるため投資家は安心できます。