当事務所のIT弁護士が解説します。
IT業界における「仕事」
IT企業において、あるシステムを構築する業務を行う場合、一つの会社に複数の会社の従業員が常駐していることはよくあります。
では、現在進んでいるプロジェクトで不具合が生じた場合、IT企業A社の者が、常駐しているB社の従業員に対して「まだ不具合が直っていないので、残業して作業の続きをしてほしい」と言うことは適法でしょうか。
「会社で仕事をする」ということの法的意味
一般的には、「雇用」と「請負」があります。
雇用契約
雇用契約が締結された場合、労働者は使用者に対し労務を提供する義務を負います。
そして、この義務の前提には、使用者が「この仕事をこのようにしてください」という指示を出す権利があることになります。これが前述した「指揮命令権」です。指揮命令権は労働契約を締結した使用者にしかありません。
請負契約
一方、請負契約が締結された場合、契約をした当事者のことを「発注者」「請負人」といいますが、請負人に課せられる義務は「仕事の完成」です。
これは、言い換えると「注文されたものを注文どおりに作り上げる」ということに尽きます。ここで、労働契約と最も異なる点は、「注文したものの作り方については、請負人の自由」(指揮命令権はない)ということです。
IT企業における「仕事」【一例】
コンピューター上で便利に動くシステムを作るためには、それに必要となるプログラムを組み立てなければなりません(ビルの建築と置き換えればわかりやすいです。ビル=システム、柱=プログラムです。)。
普通の会社はそのような技術を持っていないため、このシステム作りをIT企業に注文します(これが請負契約の締結です。)。ここで、注文を受けた企業をAとします。
A社に、このシステムを構築するための人員が足りなかった場合、業務の一部をIT企業Bに注文することになります(これも請負契約です)。
ここからがIT業界に特徴的な点ですが、B社が作ったもの(Aが作っているシステムを動かすための、もっと小さなシステム)がきちんと作動するか、A社と共同して確認しなければなりません。
A社からすれば、プログラミングはA社のパソコンを利用すれば作業ができるので、B社の従業員がA社内にいて隣で作業してもらった方が確認が早く、都合がよいことになります。
このような業務効率化を図った結果、B社の従業員は、A社へ通勤し、そこで仕事をするという状態(いわゆる「常駐」)が生まれます。そうすると、A社は、わざわざB社に連絡をとることなく、その場でB社の従業員に直接的な指示をするようになります。
しかし、前述のように、請負契約の場合、発注者は請負人に対し、指揮命令権を有しません。そのため、A社の者が、上記のような残業命令を出すことは違法です。
なぜ違法なのか
仮に、B社の従業員がA社に対して残業代を請求しようとした場合、A社と当該従業員の間には雇用契約が締結されているわけではないので、A社には残業代支払義務はありません。ですから請求したところで断られます。
一方、当該従業員はB社に雇用されているわけですから、B社には残業代支払義務があります。
しかし、自社に出勤してこない当該従業員の労働時間を把握するのは困難です。
また、A社がしっかりと当該労働者の労働時間を管理してくれていればよいですが、これがおろそかになっていた場合、当該従業員の時間外労働を客観的に示すものがありません。
その結果、やはりB社は残業代の支払を拒否してくる可能性が高いです。
このように、A社が独断で残業をさせてしまうと、常駐していたB社従業員の権利を不当に侵害する可能性が高いため、違法とされるのです。これがいわゆる「偽装請負」という問題です。
本来、雇用契約の当事者である使用者しか行使できない指揮命令権を、発注者が行使しておきながら、いざ残業代を請求されると「請負ですよね?」と言って請負契約を装うから、「偽装」といわれるわけです。
対応策
A社の立場として、指揮命令権を行使したいのであれば、B社との間で労働者派遣契約を締結する必要があります。
この場合、厚生労働大臣への申請が必要になります。もし、労働者派遣契約を締結しないのであれば、請負契約の内容を明確にする、就業場所での工夫、指導の仕方を注意する、といったことを考えなければなりません。
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経営者として求められるスタンス
経費を抑え、不利益を回避しつつ、利益を最大化するというのは、企業経営者にとって至上命題だといえます。労務関係でいえば、「社会保険料の負担を免れたい」、「うちで長時間働いてでも仕事を終わらせてほしいが、人件費は抑えたい」という思いもあるかもしれません。
しかし、労働者の権利を侵害してしまっては、企業としてはかえって大きな損害を招いてしまいます。
厚生労働省の調べによれば、派遣に関する法令違反で多いものとして、派遣労働者に対する就業条件等の明示、派遣先管理台帳の作成、記載、料金額の明示といったものが挙げられています(「厚生労働省職業安定局需給調整事業課調べ(平成25年度)」)。
偽装請負の問題は、地方になればなるほど多くなるのが現状です。
新しい人材を取り入れる時点から、取り入れている間の対策、人材が不要になったときの対応まで、先々の見通しを立てる計画性が求められています。
労務管理でお悩みのIT企業の方は、労務問題に詳しい弁護士への相談をおすすめします。
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