わが社では、人件費削減を図るため、とあるベンダーにシステム開発をお願いしました。
しかし、ベンダーの完成が遅延したため、削減できたはずの人件費が削減できないままとなってしまいました。
この人件費相当分を賠償してほしいのですが、認められますか?
この質問について、弁護士がお答えします。
損害賠償の法的根拠
ベンダーは納期までにシステムを完成させる義務を負っているため、上記の完成の遅延は、ベンダーの債務不履行であると考えることができます。
損害の範囲
では、削減できたはずの人件費相当分の費用は損害の範囲といえるでしょうか。
結論からいうと、損害の範囲とはいえない可能性が高いです。
人件費削減という目標の意味
新しいITシステムを導入することにより、これまでアナログに行っていた作業がデジタルで手間なくできるようになることを考えると、一定の人件費削減にもつながることにはなると思います。また、それを企図して開発を依頼するユーザーは多いものと思います。
しかし、結果的に業務の効率化が実現でき、人員削減が可能な状態になったとしても、実際に人員を削減するかどうかはユーザー内部の経営判断によって決定されるべきものです。
そのため、人員削減・人件費削減が目標であるとしてベンダーと共通認識があったとしても、ベンダーが負っている義務は「ユーザーが求める仕様のシステムを開発すること」に尽き、人員削減・人件費削減という目標は、あくまでシステムの機能や仕様を確定させるための参考資料という位置づけにすぎません。
実に支払った正社員の人件費について
システムが納期どおり完成していれば8人でできる仕事が、開発の遅延により(これまでどおり)10人の必要となった、という場合、2人分の余剰人員(人件費)が発生した、という考え方もあります。しかし、このような考え方をしても、やはり余剰分の賠償請求は難しいです。
つまり、前述のように、人員を削減するかどうかはユーザーの経営判断に委ねられていることに加え、仮にこの2人の手が空くことになっていたとしても、現在の労働法制上、当該従業員の給料削減や解雇などは基本的にできません。
そのため、余剰が出ていたとしても、結局は人件費を支払わなければならない状況は変わりません。
したがって、現実に生じた2人分の人件費とシステム開発の遅延の間には、因果関係が認められません。
なお、システム開発の遅延のために特別に雇った派遣・契約社員については、遅延がなければ発生しなかったといえる可能性があるため、賠償の範囲内であるとされる可能性があります。
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