介護事故報告書とは、介護事故が発生した場合に、事故の詳細を報告するための書類のことをいいます。
介護事故報告書には、第三者が一読しても分かるように、事故の詳細を①分かりやすく、②詳しく、③具体的に書くことがポイントです。
この記事では、介護事故報告書の書き方や作成する際の注意点などを分かりやすく書いていますので、ご参考にしていただければと思います。
介護事故報告書とは?
介護事故報告書とは、介護事故が発生した場合に、行政に対し、事故発生時の状況や事故の原因など、事故の詳細を報告するための書類のことをいいます。
一般的に、介護事故報告書には、次のような情報を記載することになります。
人的ミス、施設の問題、設備の故障など、さまざまな要因が考慮されます。
安全対策の強化、従業員の研修、ルールや手順の見直しなどが記載される場合があります。
介護事故報告書を作成すべきケースとは?
一定の介護事故が起こったことにより、行政に対し、原則として報告すべき義務がある場合には、介護事故報告書を作成すべきであるといえます。
行政に対し、原則として報告すべき義務が生じる「一定の介護事故」とは、具体的に次のような事故のことをいいます。
- ① 死亡に至った事故
- ② 医師(施設の勤務医、配置医を含む。)の診断を受け投薬、処置等何らかの治療が必要となった事故
※ その他の事故については、各自治体の取扱いによって報告すべき義務があるかどうかが異なります。
なお、初回の報告は、遅くとも事故発生から5日以内を目安に提出するようにしましょう。
2回目以降の報告の必要がある場合には、必要に応じて、追加の報告を行っていくことになります。
詳しくは、以下の「介護保険最新情報」をご参照ください。
引用元:厚生労働省老健局|介護保険最新情報「介護保険施設等における事故の報告様式等について」
介護事故報告書の目的や重要性
介護事故報告書を作成する目的は、大きく分けて次の3つが挙げられます。
- 介護事故の発生・再発を防止すること
- 介護サービスの改善や介護サービスの質を向上させること
- 従業員全員に共有をして、事故の詳細を把握すること
また、介護事故報告書では、事故原因を特定し、なぜ今回の事故が起こったのかについての分析を行います。
これによって、同様の事故の再発を防ぐために必要な改善策や対策を検討することができます。
そのため、介護事故報告書は、事故を適切に処理し、同様の事故が発生することの予防と利用者の安全と福祉の確保を図るための重要な手段となります。
介護事故報告書の書き方
ここでは、介護報告書の一般的な書き方について詳しくご説明いたします。
介護事故報告書のテンプレートは以下よりダウンロードいただけます。
なお、以下の厚生労働省のページからもダウンロードできます。
引用元:厚生労働省老健局|事故報告書
介護事故報告書に記載すべきこととしては、以下の9つがあります。
①事故状況
「事故状況の程度」として、「受診(外来・往診)、自施設で応急処置」「入院」「死亡」「その他」のいずれかにチェックする項目があります。
そのため、事故状況にあったチェック項目をチェックするようにしましょう。
また、事故で利用者等が死亡してしまった場合については、利用者が死亡した年月日も記載するようにしましょう。
②事業所の概要
事業所の概要として、以下の名称等を記載するようにしましょう。
- 「法人名」
- 「事業所(施設)名」
※事業所(施設)名は、介護事故が起こった場所の名称を記載するようにしましょう。 - 「事業所番号」
※事業所番号は、年金事務所から送られてくる「適用通知書」、「保険料納入告知額・領収済額通知書」などに記載されています。 - 「サービス種別」
※サービス種別は、介護事故が起こった原因となるサービス名を記載するようにしましょう。 - 「所在地」
③対象者
「対象者」とは、介護事故によってけがをしたり、損害を受けた利用者のことをいいます。
したがって、介護事故によってけがをしたり、損害を受けた利用者の情報を的確に記載するようにしましょう。
④事故の概要
事故の概要には、「事故の発生日時」、「発生場所」、「事故の種別」、「発生時状況、事故内容の詳細」等を記載する必要があります。
特に、事故の発生状況・事故内容の詳細については、記述式で記載するようになっているため、分かりやすく、かつ具体的に記載する必要があります。
事故の発生状況・事故内容の詳細の欄に記載する内容としては、次のようなことを記載することが望まれます。
- 事故が発生した経緯、事故の態様
- 事故が発生した際の利用者の状況
- 事故が発生した際の周囲の状況 など
また、分かりやすく、かつ具体的に記載するためには、次のようなところに気をつけるようにすると良いでしょう。
- 客観的な事実を記載する。
あくまでも客観的な事故状況・事故内容を記載する必要があるため、主観や感情に関する記述はできるだけ控えるようにした方が良いでしょう。 - 専門的な用語/難解な用語は用いない。
介護事故報告書は、必ずしも専門的な知識等がある人が読むわけではありません。
専門的な用語や難解な用語は、外部の人が読んで理解できない可能性があるため、できるだけ使用しない方が望ましいでしょう。 - 「5W1H」を明確にする。
「5W1H」とは、When(いつ)、Who(誰が)、Where(どこで)、What(何を)、Why(なぜ)、How(どのようにして)の頭文字をとったものです。
一般的に、人に説明する文章は「5W1H」で記載すると、分かりやすく伝わるとされています。
そのため、介護事故報告書の事故の発生状況・事故内容の詳細を記載する場合も、この「5W1H」を意識して作成すると良いでしょう。
⑤事故発生時の対応
事故発生時の対応の欄では、「発生時の対応」、「受診方法」、「受診先」、「診断名」、「診断内容」、「検査、処置等の概要」を記載する必要があります。
この中では特に、発生時の対応の欄は、詳しく記載するようにしましょう。
具体的には、次のようなことを記載するようにしてください。
- 介護施設の従業員または事故発見者が、利用者に対して、どのような行動・対応をとったのか
- 介護施設の従業員または事故発見者が、周囲の人に対して、どのような行動・対応をとったのか など
⑥事故発生後の状況
事故発生後の状況では、「利用者の状況」、「家族等への報告」、「連絡した関係機関」、「本人、家族、関係先等への追加対応予定」を記入する必要があります。
※事故発生後に連絡した関係機関の欄については、事業所の従業員または事故発見者が、実際に関係機関に連絡した場合にのみ記入します。
利用者の家族等への報告については、正確に報告年月日を記入するようにしましょう。
ただし、事故が発生した時間等によっては、家族等と連絡が取れない場合もあります。
事故発生後に、従業員が利用者の家族と連絡を取ろうと行動していたにもかかわらず、家族等と連絡が取れなかった場合には、従業員が利用者の家族と連絡を取ろうと行動していた事実を記入しておかないと、従業員の適切な行動を評価してもらえないということになってしまいます。
そのため、結果として、事故発生直後に利用者の家族等と連絡が取れなかったとしても、従業員が適切な行動をとっていたのであれば、そのことを「本人、家族、関係先等への追加対応予定」の欄にきちんと記入しておきましょう。
また、「利用者の状況」の欄には、介護施設の従業員または事故発見者からみた事故発生後の利用者の状態、反応等を記入すると良いでしょう。
⑦事故の原因分析
事故の原因分析では、原因を以下の3つに分けて記載します。
- (a)本人要因
- (b)職員要因
- (c)環境要因
(a)本人要因
「本人要因」とは、今回の事故が発生した原因のうち、利用者にどのような原因があったのかを意味します。
例えば、事故を分析した結果、次のような原因が考えられるでしょう。
→本人要因:利用者は、足が悪いにもかかわらず、松葉杖等を使用せずに歩行していたこと
具体例 誤嚥(ごえん。食べ物などが誤って食道ではなく気管に入ってしまうこと)事故の場合
→本人要因:利用者は、もともと食べ物を詰まらせやすいにもかかわらず、一度にたくさんの食べ物を口の中に入れたこと
(b)職員要因
「職員要因」とは、今回の事故が発生した原因のうち、介護施設の従業員にどのような原因があったのかを意味します。
例えば、発生した事故によっては、職員要因として次のような原因が考えられるでしょう。
→職員要因:利用者が歩行等をしているときにそばを離れたこと
※「利用者が歩行等をしているときにそばを離れたこと」の原因として、例えば、「体調が悪そうな利用者がいて、その利用者の様子を見に行ったこと」ということまで分析できるとより良いでしょう。
具体例 誤嚥事故の場合
→職員要因:利用者が普段食べ物を詰まらせやすいということが書かれてある記録を事前に確認しなかったこと
(c)環境要因
「環境要因」とは、今回の事故が発生した原因のうち、周囲の環境・介護施設の環境にどのような原因があったのかを意味します。
例えば、環境要因としては、次のような原因が考えられます。
→本人要因:利用者が歩行した地面が水で濡れていたこと
具体例 誤嚥事故の場合
→本人要因:利用者が食べた物が、小さく食べやすいサイズに調理されていなかったこと
このように、(a)本人要因、(b)職員要因、(c)環境要因に分けて分析すると、事故の原因が明確になってくるだけではなく、今後、同じような事故が発生することを防止することにも繋がります。
⑧再発防止策
再発防止策を考える際には、次のようなことを意識するとよいでしょう。
- 事故の原因に対応した再発防止策になっているか
- 実際に運用・実現することができる再発防止策か
- 運用・実現したときに効果がある再発防止策か
⑨その他
上記①〜⑧までで記載したこと以外に、記載すべきことがある場合には、その他の欄に記入するようにしましょう。
介護事故報告書の記入例
尻もちのケース
ここでは、尻もちのケースの介護事故報告書のうち、特に注意して記入すべき箇所の記入例をご紹介します。
項目 | 記入例 | |
---|---|---|
④事故の概要 | 発生時状況、事故内容の詳細 | 令和〇年〇月〇日〇時〇分頃、利用者の部屋から大きな音が聞こえてきたため、在中の職員が利用者の部屋に向かったところ、利用者が体の左側臀部を押さえた状態で床に座っていた。 利用者の側には、ブレーキがかかっていない車いすがあった。 職員が「どうされましたか。」と尋ねると、利用者は「トイレに行こうとしたがうまく車いすに乗れずお尻を強く打ちつけてしまった」と言った。 利用者の意識ははっきりしていたが、左側臀部と左側手首の痛みを訴えられた。 |
⑤事故発生時の対応 | 発生時の対応 | 左側臀部と左側手首の痛みを訴えていたため、看護師に連絡し、痛みがある部分に湿布をはる対応をした。 利用者の家族に連絡した後、利用者にしばらく安静にするよう伝えた。 |
7事故の原因分析 | 利用者に対して、車いすのブレーキのかけ方などの事前の周知が不十分だった。 | |
8再発防止策 | 利用者に対し、一人で行動する際には職員に一声かけるように再度周知するとともに、車いすのブレーキのかけ方なども教える。 利用者が、職員に一声かけやすくするように枕の側にコールを置く。 月末の定例会議で従業員全員に情報共有する。 |
転倒のケース
ここでは、転倒のケースの介護事故報告書のうち、特に注意して記入すべき箇所の記入例をご紹介します。
項目 | 記入例 | |
---|---|---|
④事故の概要 | 発生時状況、事故内容の詳細 | 令和〇年〇月〇日〇時〇分頃、昼食が終わったため、利用者が部屋に戻ろうとする。職員は、利用者の歩行をサポートするため、側で身体を支えようとした。 利用者が、「自分1人で歩けるから大丈夫。」とおっしゃったので、職員は少し距離を取り利用者を見守った。 利用者が食堂から約〇メートル進んだところで、急にふらついたため、職員が駆けつけるが間に合わず、利用者はそのまま前方に倒れた。 |
⑤事故発生時の対応 | 発生時の対応 | 令和〇年〇月〇日〇時〇分頃(利用者の転倒から約〇分後)、職員が看護師に連絡し、バイタルを測定した。体温〇度、血圧〇/〇、脈拍〇で安定した状態だった。 利用者が痛みを訴えるため、医療機関の受診指示を行った。 転倒により医療機関(〇〇整形外科)を受診する旨を家族に連絡。 |
7事故の原因分析 | 利用者が歩行する際、職員が少し離れた位置で利用者を見守った。 利用者をサポートする職員が1人だけだった。 |
|
8再発防止策 | 自立している利用者についても、手を伸ばせば届く範囲でサポートする。 食堂から各部屋への移動の時間を10分ずつずらすことで、職員2人でサポートできるようにする。 |
介護事故報告書作成の注意点
虚偽は記載しない
介護事故報告書を作成する目的は、介護事故の発生・再発を防止すること、介護サービスの改善や介護サービスの質を向上させること、従業員全員に共有をして、事故の詳細を把握することです。
介護事故報告書に虚偽の事実を記載すると、適切な再発防止策を実現することができず、再び事故が発生してしまう可能性があります。
また、介護事故報告書に虚偽の事実を記載してしまうと、従業員に対して、誤った事実を共有してしまうことになります。
そのため、介護事故報告書には、客観的な事実に基づいた正確な情報を記載するようにしましょう。
十分に調査し、事故の要因を分析する
介護事故報告書の最も重要な目的は、介護事故の発生・再発を防止することです。
事故が発生してしまった場合、その事故について十分に調査し、事故の原因を適切に分析しなければ、何が最も有効な再発防止策かが分からないままとなってしまいます。
事故について十分に調査し、事故の原因を明らかにするために事故を分析することは、最も有効な再発防止策を見つけるために重要なことなのです。
そのため、事故が起こってしまった場合には、事故について十分に調査し、事故の要因を分析するようにしましょう。
裁判の証拠となる可能性もあることに留意する
介護事故が発生した場合、介護施設の利用者やその家族が、介護施設及び介護施設の従業員に対し、安全配慮義務違反・注意義務違反を理由に、債務不履行もしくは不法行為として損害賠償を請求する可能性があります。
そうすると、裁判で争われた場合には、介護施設及び介護施設の従業員に安全配慮義務違反・注意義務違反があったかどうかを確認するために、介護事故報告書が重要な証拠となる可能性があるのです。
介護事故報告書についてのQ&A
介護事故報告書は誰が書くべき?
介護事故報告書は、基本的に介護事故を目撃した人・発見した人が書くべきものです。
なぜなら、介護事故報告書には、事故発生時の状況や事故発生時の対応等を記載する必要があり、これらの事実は介護事故を目撃した人・発見した人でなければ分かり得ないからです。
ただし、当然のことながら、介護事故報告書に記入する際、介護事故を目撃した人・発見した人だけでは分からないところ、記入できないところもあります。
したがって、まずは、介護事故を目撃した人・発見した人が報告書のベースを作成します。
その後、管理者の方でも、介護事故の目撃者・発見者が作成した報告書を確認して完成させるというのがよいでしょう。
その際、先ほど解説したとおり、管理者は虚偽の事実を記載したり、書き換えたりするのではなく、あくまでも事実に基づいて報告書を作成するようにしなければなりません。
まとめ
介護事故報告書とは、介護事故が発生した場合に、行政に対し、事故の詳細を報告するための書類のことをいいます。
介護事故報告書には、事故が発生した際の客観的状況や事故発生時の対応、事故の原因の特定と分析などを記載する必要があります。
このような事実を記載することで、同様の介護事故が発生・再発することを防止したり、介護サービスの質を向上させたりすることにつながります。
また、介護事故報告書は、事故を目撃していない第三者が読んでも事故の状況等を把握できるような内容にする必要があります。
そのため、介護事故報告書に、事故の概要や事故が発生した時の対応、事故発生後の状況、事故の原因などを記載する際には、分かりやすく、具体的に、詳細に事実を記載するようにしましょう。
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