個人事業主とは?メリット・デメリットと開業の手続き

  
監修者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

個人事業主とは、株式会社などの法人ではなく、個人で事業を営んでいる人のことをいいます。

働き方が多様化した現代において、個人事業主として事業を行って社会に参画することは非常に注目されてきています。

そこで、この記事では、個人事業主とは何なのかから、個人事業主として事業を行う上でのメリット・デメリットや必要な手続きなどについて、ご紹介します。

個人事業主とは?

個人事業主とは、株式会社などの法人ではなく、個人で事業を営んでいる人のことをいいます。

 

個人事業主の意味

個人事業主は、個人で事業を営んでいる人をいいます。

個人とは、人が事業の主体となっていることを意味していて、法人と対比される概念です。

事業とは、反復・継続して仕事を行うことを意味していて、一般的には営利、つまり利益を出すことを目的とするものをいいます。

まとめると、個人事業主とは、個人を主体として利益を目的とした活動をしている人ということができます

 

個人事業主の具体例

例えば、医者や弁護士、美容師、俳優・アイドル、漫画家など個人の専門的知識を活かしている方が個人事業主の具体例です。

ただし、これらのサービスでも、法人に従業員として所属している方もおられるので、必ずしも個人事業主であるとはいえない点は注意が必要です。

その他、最近ではYoutuber、イラストレーターなどいわゆるフリーランスと呼ばれる方々も個人事業主として活動をしていることが多いです。

 

個人事業主と法人との違い

個人事業主と法人との違いは、次のとおりです。

個人事業主 法人
事業の始め方(費用) 開業届の提出(0円) 法人の設立登記・会社印などの準備

(20万円~30万円程度)

権利義務の
主体
個人 法人
意思決定 個人 株主総会・取締役会等の機関
税務申告 確定申告 決算書に基づく申告
事業の
終わらせ方
廃業届の提出(0円) 清算手続(場合による)

 

事業の始め方(費用)

個人事業主の場合、事業を始めるに当たって必要な公的手続は開業届の提出のみで、これに費用はかかりません

開業届の提出方法などについて、詳しく知りたい方は以下の記事をご参照ください。


一方、法人の場合は設立するための手続やその費用が発生します

また、これらの手続に必要な書類の作成などを司法書士などに依頼する場合、更にその報酬も発生します。

 

権利義務の主体

個人事業主として売上をあげたり、費用を負担する場合、その権利義務の主体は個人になります。

一方、法人として事業を行う場合、その法人が権利義務の主体となります。

この違いは、例えば、事業に関して借金をした場合を想像するとわかりやすいと思います。

個人事業主として借金をした場合、事業で稼いだお金だけでなく、プライベートとしてのお金も原資にして借金を返済しなければなりません。

法人として借金をした場合、あくまで借金をしているのはその法人ですので、原則として、個人がその借金を支払う義務はないことになります。

 

意思決定

大きな借金や設備投資をする際には意思決定が必要です。

個人事業主の場合、自身だけの判断でこれらの意思決定をすることができます

法人の場合は、取締役会などによって意思決定しなければならない場合があります。

 

税務申告

税金に関しても、個人事業主と法人とでは大きな違いがあります。

個人事業主の場合は、所得税法に基づいて確定申告をします

法人の場合は、法人税法に基づいて、事業年度ごとの決算書に基づいて税務申告をします。

所得税法は累進課税(所得が多ければ多いほど税率が高くなる)がとられていますが、法人税法は資本金の額や法人の形態などによって、税率がある程度決まっています。

そのため、事業の規模等によっては、法人として事業を行った方が税務上有利な場合があります。

 

事業の終わらせ方

個人事業主が事業を終わらせる際は、廃業届を税務署に提出する以外、公的な手続は必要ありません

一方、法人の場合は、清算手続(会社に残っている資産や負債を処理する手続)や解散登記手続をする必要があり、これらにも費用が発生します。

 

個人事業主と給与所得者との違い、所得区分の違い

個人事業主と給与所得者とでは、所得区分に違いがあります。

所得区分とは、所得の発生原因に基づく区別で、所得の違いによって控除額など税務上の取り扱いが異なっています。

個人事業主の場合、その所得は原則、事業所得として扱われ、売上(収入)から、費用(経費)を差し引いた額が所得となります。

給与所得者の場合、その所得は給与所得といい、給料(収入)から控除できる金額が法律で定められています。

これを給与所得控除といい、1年間の給与の額(額面)ごとに控除できる金額が定められています。

 

社会保険

個人事業主と給与所得者では、適用される社会保険制度も異なっています。

 

健康保険と国民健康保険

健康保険制度について、個人事業主は国民健康保険に加入し、給与所得者は健康保険(協会けんぽや健康保険組合など)に加入することになります。

保険料について、個人事業主は自ら全額負担しますが、給与所得者はその半分を事業主が負担してくれ、かつ給与から天引きをするなどの違いがあります。

 

厚生年金と国民年金

年金保険について、個人事業主は国民年金に加入し、給与所得者は厚生年金に加入します

厚生年金は、国民年金制度を1階部分とする2階建てと言われることがあるように、厳密には、給与所得者は、国民年金と厚生年金の両方に加入していることになります。

年金についても、個人事業主は自ら全額負担しますが、給与所得者はその半分を事業主が負担し、かつ給与天引きを行うことが一般的です。

 

雇用保険、労災保険

給与所得者の場合、雇用保険と労災保険に加入できますが、個人事業主は自身がこれらに加入して保険による保障を受けることができません。

例えば、個人事業主の場合、病気などにより廃業したとしても就業先を見つけたりするまでの収入は保障されませんし、業務中に事故に遭ったとしても原則として労災給付を受けることができません(例外:特別加入制度)。

そのため、個人事業主がこれらの保障を受けたい場合には、自ら任意保険等に加入する必要があります

 

個人事業主と自営業者との違い

個人事業主と自営業者には、厳密な区別はありません。

いずれも個人を主体として事業を行っているという点で共通しています。

もっとも、自営業者は、個人事業において従業員を雇用するなど自分以外の労働力を用いている者を指して言われることが多いです

 

個人事業主とフリーランスとの違い

個人事業主とフリーランスについても厳密な区別はなく、いずれも個人が主体となって事業を行っている点は共通していますが、一般的に次のような区別がされていることが多いです。

  • 個人事業主はその事業だけで生計を立てている人のみを指し、フリーランスは副業として行っている人も含む。
  • 個人事業主は飲食業なども含むが、フリーランスは成果物を作成する業務(請負)を業としている。
  • 個人事業主は法人化した人は含まないが、フリーランスには自分で会社を設立している人も含む。

なお、令和6年11月からは特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(いわゆるフリーランス新法)が施行され、同法による保護が及ぶようになります。

この法律では、特定受託事業者(業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないもの)が保護の対象となっています。

また、この定義には従業員を雇用していない会社も含まれています。

そのため、

① 物やプログラムなどを作る業務の委託を受けている

②(法人かどうかにかかわらず)従業員を雇用していない者

は、特定受託事業者として保護を受けられることになります。

 

 

個人事業主のメリットとデメリット

以下では、法人と比較して、個人事業主として事業を行うメリット・デメリットについて解説します。

 

個人事業主のメリットとは?

開業手続に費用がかからない。

個人事業主のメリットは開業手続に費用がかからないのが、メリットです。

法人(会社)を立ち上げて事業を行う場合、定款の作成や法務局での登記手続などが必要となりますし、もしこれらを司法書士などの専門家に依頼する場合、その費用もかかってしまいます。

事業を始めるに当たって、こういった費用がかからないのは、個人事業主の大きなメリットといえるでしょう。

 

税務申告が容易なこと

法人の税務申告に比べて、個人事業主の税務申告の方が容易という点がメリットとして考えられます。

特に近年では、税務申告用の会計ソフトが豊富に流通しており、また、e-Taxなどオンラインによる申告も簡単にできます。

 

消費税がかからない?

個人事業主であっても、年間の課税売上高(消費税を抜いた売上)が1,000万円を超えると消費税が課せられますので注意が必要です。

 

インボイスの対象とならない?

個人事業主であっても、インボイス(適格請求書発行事業者)の登録を受けることでインボイスの対象となることができます

なお、インボイスの対象となるにはその前提として、消費税の課税事業者になる必要があるため、年間の課税売上高が1000万円以下の場合は、「消費税課税事業者選択届出書」を税務署へ提出して、課税事業者を選択する必要があります。

 

個人事業主のデメリットとは?

事業における責任がすべて個人にかかってくる。

個人事業主は、その事業に関する権利だけでなく、義務も個人が負うため、事業に失敗した場合、プライベートにも大きな影響を与えることがあります

この点、法人として事業を行った場合、事業に関する権利や義務は個人から切り離されるため、事業が失敗しても、プライベートへの影響を抑えることができます。

 

法人に比べて社会的な信用度に劣る。

個人事業主のデメリットとしては、法人に比べて社会的な信用度に劣るということが挙げられます。

もちろん、実際に個人事業主が法人事業者に劣っているということはありませんが、法人登記など公的な手続が完了していることが、信用の根拠となることがあります。

これにより、例えば銀行から融資を受ける際や、顧客に営業する際に若干影響を与える可能性があります

 

雇用保険や労災保険に加入できない。

個人事業主は、労働者でないので、自身は雇用保険や労災保険に加入できない点がデメリットです。

例えば、事業に失敗したとしても雇用保険に加入していないので、失業手当を受給することができません(事業開始前や事業中に雇用保険に加入していて、受給資格があれば別)。

また、事業を行う中でケガをしたとしても、労災保険を受給することができません。

そのため、これらのリスクに備えるためには、任意保険に加入しておくか、労災保険の場合、利用者は限られますが、特別加入制度を利用しておく必要があります。

 

赤字の繰り越しが3年までしかできない

個人事業主の場合、赤字の繰り越しが3年までしかできない点は法人に比べてデメリットです。

赤字の繰り越しとは、例えば、初年度に100万円の赤字を出した場合、翌年度に得た30万円の利益に対して、赤字を当てて、税務上の所得を減らすものです。

このように赤字の繰り越しにより、将来の所得を減らして、税金の負担を軽くすることができます。

ただし、赤字の繰り越しは法人の場合10年先まで繰り越せるのに対し、個人事業主は3年までしか繰り越しができません

このように赤字の繰り越し期間が短い点は、個人事業主のデメリットといえます。

 

社会保険料の負担が増える?

結論として、社会保険料の負担については、個人事業主と法人とで大きな違いはありません。

なぜなら、法人の場合であっても、最終的に社会保険料を負担するのは事業主だからです。

法人の場合には、個人の財産と区別しますので、個人の負担額が抑えられるという点をメリットと捉えるかどうかによるかと考えられます。

 

所得税が高くなる?

所得税は、個人事業主の方が法人化するより高くなります。

なぜなら、個人事業主の場合、事業による所得は事業主個人が得たことになるため、所得税における所得が多くなるからです。

一方で、法人化した場合、事業による所得は法人に帰属するため、事業主の所得税は減少し、代わりに法人税を支払うことになります。

したがって、結果的に所得税だけに関していえば、個人事業主の方が多く支払うことになります

ただし、法人から役員等として自らが報酬を得る場合、その報酬について所得税がかかることは注意が必要です。

 

個人事業主をおすすめする人

以下では、税金の観点から法人化をおすすめする人をご紹介します。

結論から言えば、事業による所得(利益)が800万円ぐらいになった人については、法人化をおすすめします

 

法人化をおすすめする人

所得が800万円になった辺りから、個人事業主から法人へ切り替えることを検討すべきです

なぜなら、所得がこの辺りになった以降は、法人化したほうが、税金や社会保険料を踏まえると特をする場合があり得るからです。

その大きな理由は、所得税と法人税の税率の違いです。

所得税は累進課税により税金が計算されます。

つまり、所得が多いほど高い税率によって税金が計算されるということです。

以下は、所得税額の計算早見表です。

課税所得金額 税率 控除額
1,000円から1,949,000円まで 5% o円
1,950,000円から3,299,000円まで 10% 97,500円
3,300,000円から6,949,000円まで 20% 427,500円
6,950,000円から8,999,000円まで 23% 636,000円
9,000,000円から17,999,000円まで 33% 1,536,000円
18,000,000円から39,999,000円まで 40% 2,796,000円
40,000,000円以上 45% 4,796,000円

一方、法人は法人の種類や資本金額などの区分ごとに、ある程度一定の金額になっています。

具体的には、株式会社(資本金1億円以下。令和4年4月1日以降に事業を開始)は、800万円部分には15%、それを超える部分には23.2%の税率がかかりますが、それ以上税率が上がることはありません。

このように、課税所得金額が900万円以上となると、所得税の方が税率が高くなっていくため、法人化する方が有利になります

また、税金だけでなく社会保険料なども考慮すると、所得が800万円辺りになると、法人化したほうが負担が少なくなる場合があります。

これらのことから、所得が800万円辺りになった人については、法人化の検討をおすすめします。

 

個人事業主となるための手続き

個人事業主になるための手続は、基本的には開業届を提出するのみです。

 

開業届について

個人事業を開始した場合には、税務署に対して開業届を提出して開業の事実を知らせる必要があります

開業届自体によって、直接に税制上のメリットがあるわけではありませんが、以下でご紹介する青色申告等の制度を利用するには、開業届の提出が必要です。

また、個人事業主であることを証明する必要がある場合に、開業届の写しを提出することで個人事業主であることを証明することができるメリットがあります。

よくあるのは保育園への入所手続の際、「就労証明書」に開業届の写しを添付する場合です。

保育園は定数を超えた入所申込があった場合、両親の就労状況によって入所の必要性を判断して選定を行うため、開業届は重要な資料になります。

開業届の書き方については、こちらで詳しく解説しているので、ご参考になさってください。

 

個人事業主となってから必要となること

個人事業主になると、開業届の提出のほかに、様々な手続を行う必要があります。

以下では、その内容をまとめてご紹介します。

税金に関する手続と従業員を雇用する場合には雇用保険・労災保険の手続があります。

税金に関する手続

税金に関する手続については、以下の手続(書面)があります。

見手続・書面 見手続・書面の目的
個人事業の開業・廃業等届出書(開業届) 税務署に対して開業の事実を知らせる
事業開始等申告書(個人事業税) 地方公共団体に開業の事実を知らせる
青色申告承認申請書 青色申告制度の利用を希望する
青色事業専従者給与に関する届出書 親族に事業を手伝ってもらう場合に、給与を経費とする
給与支払事務所等の開設届出書 従業員に給与を支払う
給与所得者の扶養控除等申告書 従業員の扶養状況等を申告してもらう
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 従業員から源泉徴収した所得税の納付時期を毎月から、年2回に変更する
所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書 減価償却を行うに当たり定率法を用いる
消費税課税事業者選択届出書 消費税の課税事業者でない期間において、課税事業者となることを選択する
消費税簡易課税制度選択届出書 消費税の簡易課税制度の適用を選択する
適格請求書発行事業者の登録申請書 適格請求書発行事業者になりインボイス適格請求書を発行できるようになる

 

確定申告について

個人事業主となる場合、確定申告が必要となります。

個人事業主の場合、各年の1月1日から12月31日までが申告期間となり、この期間における所得税額を計算して、原則として毎年2月16日から3月15日までに税務署に提出する必要があります。

所得税の計算に当たっては、青色申告による申告を行う方が有利ですが、青色申告をするには複式簿記により記帳しなければならない点には注意が必要です。

複式簿記とは会計基準に定められた帳簿の記帳方法であり、この基準に従わなければなりません。

現在では、青色申告をサポートする様々なソフトが販売されていますので、これらを活用して日々の事業活動を記録するようにしましょう。

なお、申告した税額については、同年の3月15日までに納付する必要があり、付が遅れた場合には延滞税がかかりますので、納付手続も怠らないようにしましょう

なお、消費税の課税事業者となる場合には、消費税の確定申告も必要であり、翌年の1月1日から3月31日に申告を行った上、同年の3月31日までに納付する必要がある点にも注意が必要です。

 

青色申告承認申請書

所得税を青色申告で行うには、青色申告承認申請書の提出が必要です。

青色申告とは、確定申告の申告方法のひとつで、特別控除の適用がない白色申告と対比してこのように呼ばれています。

白色申告では所得控除額が10万円に留まる一方で、青色申告では65万円になり、税額が変わります

また、青色申告を利用することによって、赤字を3年先まで繰り越すことができます。

これを純損失の繰越控除といいます。

例えば、初年度に収入を費用が90万円上回ってしまった(赤字が発生した)場合を考えてみます。

この場合、青色申告をしていないと、翌年50万円の所得が発生したときに50万円の黒字が発生したとして課税されてしまいます。

一方、青色申告をしている場合、初年度の90万円の赤字を翌年に経費として計上できるので、40万円の赤字が出たことになり、結果として課税がゼロになります。

更にまた翌年も同様に、この40万円を経費として計上することができます。

このように純損失の繰越控除を利用することで、将来の税額を減らすことができます。

 

青色事業専従者給与に関する届出

個人事業主の所得を計算するに当たり、事業を手伝ってくれる配偶者や親族などに対する給与は原則として、経費になりません。

これらを経費とするためには、青色事業専従者給与に関する届出が必要となります。

経費となる給与の額は、労務の対価として相当な金額でなければなりませんが、この届を提出した上で、青色申告をすることにより全額が経費となり、節税となります。

提出期限は、開業日から2か月以内、2年目以降にする場合には、3月15日までにしなければなりません

開業届や青色申告承認申請書と併せて提出するようにしましょう。

 

源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書

従業員への給与や専門家に支払う報酬は、あらかじめ源泉徴収税を徴収した上で、毎月納税しなければならず、非常に手間がかかります。

そこで、源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書を提出することにより、源泉所得税の納期を半年に一回にまとめることができます。

ただし、この申請を行うことができるのは、給与の支払人数が10人未満でなければなりませんので、事業の規模が大きくなったときは利用できません

また、フリーデザイナーなど一部の個人事業主への報酬に関する源泉所得税は対象外となっているため、申請をしていても毎月納付しなければならない点に注意が必要です。

 

消費税課税事業者選択届出書

消費税課税事業者選択届出書とは、消費税の納税義務がない免税事業者が敢えて課税事業者になるための書類です。

消費税の納税義務が発生するのは、課税売上高が年間1000万円を超えた年の翌々年であり、それまでは免税事業者として消費税の納税義務がありません。

そのため、その期間に取引先から受領した消費税はそのまま受け取ることができます。

一方で、消費税は受け取った消費税から支払った消費税を控除して最終的な消費税の納税額が決まり、もし、支払った消費税の方が多い場合は還付が受けられます。

そのため、免税事業者の期間であっても、支払った消費税の方が多く、還付が受けられる見込みがあるときは、課税事業者を選択することも検討しましょう。

また、適格請求書発行事業者選択承認書の欄でも述べるとおり、適格請求書を発行するには、課税事業者にならなければならないため、適格請求書発行事業者になる場合にも、課税事業者を選択します。

この届出をすると2年間は免税事業者に戻れないことには注意しましょう。

 

消費税簡易課税制度選択届出書

消費税額の計算の基本的な仕組みは、受け取った消費税から支払った消費税を差し引くというものです。

消費税の金額を逐一計算するのはかなり大変ですが、簡易課税制度を選択することにより、簡単に計算することができます。

つまり、簡易課税制度では、実際に受け取った消費税額を計算することなく、課税売上高に対して法定の率(みなし仕入率)を乗じた金額を受け取った消費税額とすることができます。

この場合、実際に受け取った消費税額よりみなし仕入率による消費税額が上回っている場合には、支払うべき消費税額が小さくなるため、こういった観点からも簡易課税制度の利用を検討しましょう。

 

適格請求書発行事業者登録申請書

令和5年10月からインボイス制度が始まり、適格請求書を発行するには適格請求書発行事業者に登録しなければならず、本申請書はそのための申請書です。

インボイス制度とは、消費税額を決める際、仕入税額(支払った消費税)の控除を行うに当たっては、適格請求書発行事業者から発行される適格請求書に基づかなければならないという制度です。

適格請求書に基づかない仕入税額については、原則として、仕入税額として扱われません。

そのため、事業者はできる限り適格請求書発行事業者と取引をすることや、適格請求書発行事業者でない事業者に対しては、消費税を含まない価格で取引を行うようになります。

なお、2029年10月1日までは、適格請求書の発行がなくても、一定の要件を満たすことで顧客は消費税額の一部を控除できますが、それ以降は一切控除ができなくなります。

このような事情から、事業を始めるに当たっては、インボイス制度による取引への影響を考慮して、適格請求書発行事業者になるかどうかを考える必要があります。

また、適格請求書発行事業者になるには前提として、課税事業者となる必要がありますので、免税事業者の場合には、併せて課税事業者に登録する必要がある点にも注意が必要です。

 

雇用保険・労災保険に関する手続

雇用保険・労災保険に関する手続は次のとおりです。

手続・書面 手続・書面の目的
労働保険保険関係成立届、労働保険概算保険料申告書 労災保険の加入手続をする(従業員を一人でも雇用した場合は義務)
雇用保険適用事業所設置届、雇用保険被保険者資格取得届 雇用保険に加入する(従業員を一人でも雇用した場合は義務)
健康保険・厚生年金保険新規適用届、健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届、健康保険被扶養者届 健康保険と厚生年金保険に加入する(常に5人以上の従業員を雇用する場合は義務(ただし、一部の業種を除く))
労災保険関係

労災保険とは、従業員が仕事中にケガをした場合などに補償を行う保険です。

従業員を一人でも雇用した場合には、労災保険への加入が義務付けられています。

加入手続は、従業員を雇ってから10日以内に行わなければならず、手続は労働基準監督署にて行います

労災保険の保険料は事業主が全額負担となりますので、従業員を雇う場合にはこういった労災保険料も事業計画で考慮する必要があります。

 

雇用保険関係

雇用保険とは従業員が失業したときに、次の就業までの生活を補償するために加入するものです。

労災保険と同じく、従業員を雇用した場合には必ず加入しなければなりません

(31日以上引き続き雇用される見込みがあり、かつ1週間の労働時間が20時間以上ある従業員のみ)

加入手続は、従業員を雇ってから10日以内に行わなければならず、手続はハローワークにて行います。

雇用保険の保険料は、労災保険と違って従業員と分担しますが、事業主も負担するので事業計画で考慮する必要があります。

 

健康保険・厚生年金保険関係

常に5人以上の従業員を雇用している場合には、一部の業種を除いて、健康保険と厚生年金保険に加入することが義務付けられています

(加入義務がない業種:旅館業、飲食業、理容・美容業、エステティックサロン、クリーニング業、税理士事務所、漁業など)

加入義務がない業種でも、従業員の半分以上の同意があれば、申請によって加入できます。

加入手続は、従業員が5人以上になった日から5日以内に行わなければならず、年金事務所にて行います。

必要な書類は表に記載しましたが、年金事務所によって異なる場合があるので、事前に確認するようにしましょう。

保険料は、事業主と労働者との間で半分ずつ負担することになります。

 

個人事業主についてのQ&A

個人事業主になれない人とは?

個人事業主になれない人は特にいません。

ただし、弁護士など資格がなければ行うことができない事業を行う場合には、当然その資格がなければ事業を行うことができません。

また、会社や公官庁では副業・兼業を行うのに許可が必要となっている場合が多いため、副業として個人事業を行う場合には、これらの許可を得るようにしましょう。

 

個人事業主に補助金はありますか?

個人事業主には、毎年様々な補助金があります。

以下で2024年に実施されている補助金をいくつか挙げているので、ぜひ利用を検討してみてください。

またこれ以外にも、各地方公共団体で補助金を実施している場合がありますので、積極的に利用を検討しましょう。

補助金・助成金名称 URL
小規模事業者持続化補助金 ・商工会の管轄地域で事業を営んでいる場合

小規模事業者持続化補助金【一般型】

・商工会議所の管轄地域で事業を営んでいる場合

小規模事業者持続化補助金(一般型)

ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 ものづくり・商業・サービス 生産性向上促進補助金について
IT導入補助金 IT導入補助金2024

 

 

 

まとめ

この記事では、個人事業主のメリット・デメリットや必要な手続きなどについて、ご紹介しました。

新しく事業を行うときは、事業がうまくいくかどうか不安なだけでなく、様々な手続を確実に行っていく必要があります。

しかし、初めてのことばかりで、せっかく事業を始める気持ちがくじかれてしまうことがあるかもしれません。

この記事がそのお役に立てれば幸いです。

また、当事務所では、事業トラブルに関する案件を日常的に取り扱う弁護士がご相談対応しております。

また、来所でのご相談、電話相談、オンライン相談(Zoom、LINE、Meet、フェイスタイム)も対応しており、全国対応しておりますので、お気軽にご相談ください。

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