賃貸借契約書(ちんたいしゃくけいやくしょ)とは、物を貸し借りする場合に、貸主と借主との間で結ばれる契約書をいいます。
特に、建物や土地などの不動産を貸し借りする場合に広く利用され、会社だけでなく個人の方にとっても大変重要な契約書です。
そして、不動産の賃貸借は非常に高額な取引であることも多い一方で、トラブルが起こることも少なくありません。
賃貸借契約についてしっかり理解して、必要な手順を踏むことでこのようなトラブルのリスクを最小限にとどめることができるようになります。
さらに、当事務所では、賃貸借契約書の各種テンプレートを作成し、無料で公開しています。
こちらに沿って、その中身やこれを活用した賃貸借契約書の作成の流れについてもご説明したいと思います。
これから賃貸借契約の準備を考えられている方にとって役に立つ内容をまとめていますので、ぜひご参考にされてください。
賃貸借契約書とは?
まずはじめに、賃貸借契約とは何かを正確に理解することが大切です。
賃貸借契約書は、物を賃貸する際に必要な契約書です。特に、物の中でも、土地や建物、つまり不動産を賃貸する場合に頻繁に利用されています。
具体的には、賃貸人(貸す人)が賃借人(借りる人)に対して、物件の使用を一定の期間許可する代わりに、借りる人が貸す人に利用料(家賃、地代)を支払うことを取り決めます。そして、その期間が終了したときには物件を貸主に返還します(返還約束)。この一連の取り決めを定めるものが賃貸借契約書です(民法第601条参照)。
なお、賃貸借をするために、必ずしも契約書を結ぶ必要はありませんが、貸す人と借りる人との間で権利と義務の関係を文書にすることで、双方の立場や条件を明確にして、契約違反や紛争を防ぐため、基本的に賃貸借契約書が取り交わされます。なお、このページでは、不動産の賃貸借契約書を念頭に以下の解説を行っていきます。
(参考法令)民法 第601条
第六百一条 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
引用:民法|e-Gov法令検索
賃貸借契約書の読み方
なお、賃貸借契約書の正しい読み方は「ちんたいしゃくけいやくしょ」です。
たまに間違って発音されている方を見かけますので、ぜひこの機会に覚えておきましょう。
賃貸借契約書と賃貸契約書との違い
「賃貸借契約書」のほかにも、一般に「賃貸契約書」という表現も用いられることがあります。
基本的にこの二つは同じ意味だと考えていただいて支障ありません。
厳密には、「賃貸借契約書」は、不動産や動産(例えば車両など)の賃貸借契約に関する書類全般を指すのに対して、「賃貸契約書」は、特に不動産の賃貸に関する契約書だけを指すことが一般的です。
日常的な不動産賃貸に関しては「賃貸契約書」が使用されることも多いのですが、法律用語としては「賃貸借契約書」が正確です。
賃貸借契約書の雛形・テンプレート
賃貸借契約書を自分で作成するにあたっては、雛形・テンプレートを活用することが非常に有効です。
賃貸借契約書のテンプレートには、物件の詳細情報、賃料、契約期間、支払い条件、保証金や敷金の取り扱い、更新条件、物件の使用条件、解約に関する条項など、賃貸借契約書に盛り込むべき基本的な項目がすでに記載されています。
これにより、基本的な項目を書き漏らすことなく、スムーズに賃貸借契約を作成することができます。
賃貸借契約書のテンプレートはインターネット上に複数みられますが、当事務所では弁護士が作成した信頼できるテンプレートを無料で公表しています。
複数種類の賃貸借契約書に加えて、関連する通知書のテンプレートなども公表していますので、多くの方の役に立つと思います。
ぜひ、ご参考にされてください。
なお、テンプレートを利用するメリットは、専門的な法律知識がなくても、比較的簡単に正確な賃貸借契約書を作成できる点です。
ただし、実際の取引はケースバイケースですから、雛形・テンプレートに頼りきりではなく、実際の取引に応じた修正(追記、削除)をすることも念頭に活用いただくことが重要です。
そして、賃貸借契約は法律的に複雑な側面を持つため、大規模な物件や商業用不動産(テナント物件)など、特に注意を要する場合には、専門家の意見を仰ぐことをおすすめします。
賃貸契約書作成の流れ
賃貸借契約書作成の手順については、特に決まりがあるわけではありません。
ですが、以下の流れに沿って、事前に必要な情報や書類を揃えていただくことで、スムーズに作成いただくことができます。
まず、賃貸借契約を締結する物件の情報を詳細に確認しましょう。
物件の住所のほか、個々の取引で重要とされる条件(例えば、構造、使用用途など)は賃貸借契約上で、明確化する必要があります。
また、契約書に記載すべき条件を検討するためにも、物件の設備や状態についてもしっかり確認しておきましょう。
次に、賃貸借契約における条件を決定します。
毎月の賃料や敷金・礼金の条件、更新の有無や手続などの基本条件に加え、特約事項としてどのような取り決めを行うか決めます。
特に、原状回復費用や修繕の負担割合については、事前に明確にしておくことが重要です。
ここまでで確認・決定した情報をもとにして、いよいよ賃貸借契約書の作成に入ります。
前述の通り、賃貸借契約書のテンプレートを参考にするのが合理的です。
そこで、まずはどのテンプレートを利用するかを決定しましょう。
インターネット上には色々なサンプルやテンプレートがありますが、弁護士などの専門家が監修したものを活用いただくことを推奨します。
また、古いテンプレートは時代や法律にあっていない内容が記載されている恐れもありますので、できるだけ新しく作成されたテンプレートを利用するのがいいでしょう。
前述の通り、当事務所では弁護士が作成した信頼できるテンプレートを無料で公表していますので、ぜひご利用ください。
次に、選択したテンプレートをもとに、具体的な物件や契約条件に応じて内容をカスタマイズしていきます。
基本的に、②で事前に取り決めた条件を盛り込んでいくことになります。
特に、賃貸人と賃借人双方の権利や義務については、後のトラブルを避けるためにも、明確に記載しましょう。
賃貸借契約書作成に加えて、契約書に添付する各種書類も準備していきましょう。
契約書に添付する書類としては、借りる側の身分証明書や保証人の同意書、物件の詳細資料などが挙げられます。
賃貸借契約に必要な書類について、詳しくは、「賃貸借契約に必要な書類とは?」で詳しく解説します。
契約書の作成が完了したら、貸主と借主の双方で内容を確認し、問題がないか確認します。
その後、契約書に記名押印を行い、契約が正式に成立します。
契約書を締結する際には、原本を2部作成して、貸主と借主で双方1部ずつ保管することが一般的です。
賃貸借契約に必要な書類とは?
賃貸借契約を締結する際には、契約書だけでなく、さまざまな書類が必要になります。主に、借りる側で準備することになります。
必要な書類を適切に揃えておくことで、契約を円滑に進めることができ、後々のトラブルを防ぐことができます。
まず、賃貸借契約を行う際に必要とされる書類には、以下のようなものがあります。
まず、賃借人の身分証明書は、賃貸借契約を締結する際に必ず確認されます。
一般的には、運転免許証や保険証、パスポート、マイナンバーカードなどの公的な身分証明書が使用されます。
これにより、なりすましによる契約を回避するとともに、借主の身元を確認し、万が一トラブルが発生した場合に対応をしやすくする目的があります。
賃借人が賃料を支払う能力があることを証明するために、収入証明書も必要となります。
これは給与明細や確定申告書、会社から発行される収入証明書などが該当します。
テナント契約の場合、法人であれば決算書などの収入資料を求められることもあります。
特に、高額の賃料や長期間の契約においては、収入証明書の提出が義務付けられることが多いです。
収入証明書は、オーナーにとって借主が家賃を安定して支払えるか否か、を判断する重要な資料となります。
借りる側で保証人が必要な場合、その保証人の身分証明書や収入証明書、印鑑証明書なども求められることがあります。
保証人は、賃借人が家賃を支払えなくなった場合に代わりに支払う義務を負う立場です。そのため、保証人の身元確認も慎重に行われます。
なお、保証人には、親族や信頼できる第三者が選ばれることが多く、契約書の中で保証人の義務についても明確に記載されますので、必ず確認するようにしましょう。
契約の対象となる物件の情報も重要です。
物件の所在地、広さ、間取り、設備の詳細などを記載した書類を契約書に添付することがあります。
こちらは、①②③と異なり、貸す側が準備することになります。
これにより、借主が契約時点で物件の状態や設備について正確に把握できるため、退去時のトラブルを防ぐことができます。
特に、賃貸物件の不動産業者が作成する物件パンフレットや図面などが活用されることが多いです。
収入印紙について
賃貸借契約書には、収入印紙を貼付することが法律で義務付けられている場合があります。
収入印紙は、印紙税法に基づいて契約書に対して課せられる税金の一種で、契約書の内容や契約金額によって、必要な収入印紙の額が異なります。
収入印紙を貼らずに契約書を作成した場合、後々税務署から罰金を課される可能性があるため、契約時には必ず収入印紙を確認し、必要に応じて貼付するようにしましょう。
賃貸借契約書が2部作成される場合、それぞれに収入印紙を貼る必要がありますが、通常、契約者双方が1部ずつ負担することが一般的です。
一般的に、土地の賃貸借契約書であれば、いわゆる1号文書として、契約金額に従って法定額の収入印紙が必要になります。
契約金額が高額になる場合には、収入印紙の額もそれに比例して増加します。
具体的な金額については、以下の国税庁サイトから最新の税法についてご確認ください。1号文書における収入印紙額を示す表も掲載されています。
引用元:タックスアンサーNo.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで|国税庁
一方、建物の賃貸借契約であれば、収入印紙は不要となります。
引用元:タックスアンサーNo.7106 建物の賃貸借契約書|国税庁
賃貸借契約書の2つのポイント
賃貸借契約書は、借主と貸主の間で交わされる契約の基盤となり、後のトラブルを防ぐためにも重要な書類です。
そこで、賃貸借契約書を作成する際には、以下のポイントに特に注意しましょう。
インボイスが必要なケースがある
賃貸借契約においては、インボイス(請求書)の発行が必要になることがあります。
ただし、賃貸借契約では、賃料が基本的に毎月同額で、通常口座からの引落しや振込みが多いと思います。
そして、このような場合には、賃貸人が賃料を請求する際に都度毎月適格請求書を発行せずとも、賃貸借契約書に必要項目を記載し、預金通帳などの証拠を残すことで仕入税額控除の要件が満たされることもあります。
ご自身の取引について、インボイスが必要なケースか意識するようにしましょう。
以上の他にも、賃貸借契約については、実際には不動産管理会社などの仲介事業者も絡んで、税務処理やインボイス対応などが複雑になりがちです。
もし不明点があれば、弁護士や税理士などの専門家に相談して、丁寧に対応するようにしましょう。
契約に強い弁護士に相談する
賃貸借契約は、一見シンプルに見えますが、実際には法律的なリスクを含むことが多々あります。
特に、トラブルが発生した際には、契約書の内容が非常に重要になります。
そのため、契約書の作成時には、専門家である弁護士に相談することを強くお勧めします。
弁護士に相談することで、契約書の内容が法律的に問題ないかどうか、また借主や貸主の立場をしっかりと守るための条項が含まれているか、確認することができます。
また、特約事項についても、法律的な観点からアドバイスを受けることで、トラブルを未然に防ぐことができます。
特に、途中解約や更新料の発生条件については、後々の紛争の原因となることが多いため、事前に弁護士に確認を取ることが重要です。
賃貸借契約書についてのQ&A
続いて、賃貸借契約書について、よくある質問を取り上げてわかりやすく解説します。
賃貸借契約書はどこでもらえますか?
物件を借りる際、賃貸契約を結ぶ際に契約書が用意され、署名を行います。
不動産業者が仲介している場合、その業者が賃貸契約書を準備するのが一般的です。
ただし、事業用賃貸契約や個人間での契約など、必ずしも不動産業者が関与しないケースでは、自分で契約書を作成しなければならない場合もあります。
その際には、信頼できるテンプレートを活用しながら、必要事項をきちんと反映した契約書を作成することが大切です。ぜひ、本ページの内容もご参考にされてください。
そして、いずれのケースでも、提供された契約書案やテンプレートをそのまま鵜呑みにすることなく、ご自身の取引や条件に合っていることを丁寧に確認しましょう。
賃貸借契約書がない場合どうすればいいですか?
口頭での合意で賃貸借契約が成立していることもあり得ます。
しかし、契約書が存在しないと、後々トラブルが発生した際に証拠としての機能がないため、非常にリスクが高くなります。
例えば、退去時に敷金返還や原状回復に関する紛争が生じた場合、口頭の合意のみでは証拠が不足し、借主や貸主のそれぞれの主張の水掛け論になってしまいます。
そのため、仮に契約書が交わされていなかったり、紛失してしまっている場合でも、できるだけ早く双方で話し合って書面に残しておくことが重要です。
もし、すでに賃貸借契約が始まっていて契約書が存在しない場合、すぐに契約書を作成し、双方の合意を文書で確認しておきましょう。
この際、交渉が難航したり、適切な契約書を作成できない等、お困りごとがありましたら弁護士に相談されることを強くお勧めします。
賃貸借契約書に期限がある場合、更新はどのように行いますか?
例えば、「1年間の契約」と記載されている場合、契約期間満了時に更新手続きを行う必要があります。
契約の更新については、通常、契約期間満了の1〜2ヶ月前にオーナーや不動産業者から通知が来ることが多いですが、特に双方から更新停止の連絡がなければ自動で更新されることも多いです。(各賃貸借契約で条件が明記されています。)
更新手続きには、新たな契約書の作成や、更新料の支払いが必要となることがあります。
特に、関東地方では更新料が一般的で、更新時に1〜2ヶ月分の賃料が更新料として請求されることがあります。
これは、地域や物件ごとに異なるため、事前に契約書で確認しておくことが重要です。
更新手続きの際も、契約内容に変更がある場合は、契約書を改めて作成し直し、双方の合意を文書で確認しておくことが重要です。
賃貸借契約書に違法な条項が含まれている場合、どうすればいいですか?
例えば、借主の権利を過度に制限する内容や、不当に高額な違約金を課す条項などです。
賃貸借契約書が法的に無効であると判断される場合、その条項は裁判などで認められない可能性があります。
違法な条項が含まれているかどうかを判断するには、法律の知識が必要ですので、弁護士に契約書をチェックしてもらうことが重要です。
万が一、違法な条項が含まれていた場合、契約書を修正するか、法的に無効な条項であると主張することが可能です。
特に、契約の解約に関する条項や、賃料の支払い遅延に対するペナルティ、物件の修繕費用の負担割合などについては、注意が必要です。
不当な契約条件を防ぐためにも、契約書を交わす前に弁護士に相談し、内容を確認することが最善の策です。
まとめ
賃貸借契約書は、物の貸し借りにおいて非常に重要な役割を果たします。
物件の貸主と借主の権利や義務を明確にするために、契約書を正確に作成することはトラブルを未然に防ぐための基本的な手段となります。
そして、口約束だけで話を進めると後で思わぬトラブルになることもあるため、賃貸借契約書を作成するべきです。
契約書の内容がしっかりと法律に基づいているか、契約におけるリスクが適切にカバーされているかを確認するためには、法律の専門家である弁護士に相談することが非常に有効です。
テンプレートを活用する際にも、専門家のアドバイスを得ることで、より安全な契約が可能になります。
また、契約書の作成や更新の際には、借主・貸主の双方が納得できる形で契約内容を調整し、必ず書面にて賃貸借契約を結ぶことが大切です。
ぜひ、当事務所のテンプレートや、本ページの解説を参考にしながら、適切な賃貸借契約書を作成していただき、順調にビジネスを推進いただければと思います。
デイライト法律事務所では、賃貸借契約書の作成や確認、賃貸借契約に関する多くのトラブルについて対応実績を有しています。
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