株主総会議事録とは、株式会社において株主総会を開催した場合に、会議の概要、議事の経過、決定事項などを記録する書面またはデータ上の記録です。
株主総会を開催した場合には、法律上、株主総会議事録の作成が義務付けられています。
このページでは、株主総会の議事録に必要な記載事項や、ひな形をもとにした議事録の書き方や押印などを弁護士が詳しく解説しています。
株主総会議事録とは
株主総会議事録とは、株式会社において株主総会を開催した場合に、会議の概要、議事の経過、決定事項などを記録する書面または電磁的な記録です。
法律上、株主総会を開催した場合には、株主総会議事録の作成が義務付けられています(会社法第318条第1項)。
第三百十八条 株主総会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成しなければならない。
株主総会議事録はなぜ必要?
株主総会議事録の作成は、法律上の義務となっています(会社法318条1項)。
したがって、株主総会議事録を作成していない場合、経営陣は利害関係者(債権者、株主等)から会社法違反を理由に責任を追求される可能性もあります。
また、株主総会は会社を運営するうえで重要な意思決定の場となります。
何を議題とし、どのように議決されたのか、記録として残すことは経営にとっても重要と考えます。
株主総会議事録には保管の義務がある
本店の保管義務
株主総会議事録は、株主総会の日から10年間保管しておかなければなりません(会社法318条2項)。
支店の保管義務
支店を設置している会社については、原則としてその支店に5年間、株主総会議事録を保管しておかなければなりません(会社法318条3項)。
例外的に、株式総会議事録がパソコン等でデータとして作成されている場合で、支店において、閲覧等に応じることができる場合、保管義務はありません。
保管義務に違反した場合
会社が上記の保管義務に違反した場合、取締役、監査役等は100万円以下の過料に処せられるおそれがあるため注意が必要です(会社法976条8号)。
誰が作成するのか
株主総会議事録は、取締役が作成しなければなりません(会社法施行規則72条3項6号)。
平取締役でも代表取締役でも作成することが可能です。
株主総会議事録の記載事項
株主総会議事録は法令に従って作成する必要があります。
すなわち、会社法施行規則第72条第3項には、株主総会議事録に必ず記載すべき事項が列挙されています。
会社法施行規則第72条の抜粋(わかりやすく抽出しています。)
上記の内容について、くわしく解説します。
①開催日時と場所
株主総会が開催された日時と場所を記載します。
場所については、例えば「当社本社会議室」などのように記載します。
近年、Zoomなどのオンラインによって株主総会に出席するケースが増えています。
このような方法で出席する方がいる場合、「当社本社会議室」などの記載では足りません。
開催場所に存在しない取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役)、執行役、会計参与、監査役、会計監査人又は株主がいる場合は、出席の方法の記載も必要となるので注意しましょう(会社法施行規則第72条3項1号括弧書き)。
②株主総会の議事の経過の要領及びその結果
株主総会の議題についての経過の要領とその結果を記載します。
「要領」ですので、あまり詳細に記載する必要はありません。
例えば、取締役の選任が議題であれば、以下のような文言が考えられます。
「議長は、取締役〇〇を選任することについて議場に諮ったところ、出席株主の議決権の過半数の賛成によって承認可決された。」
③株主総会において述べられた意見又は発言の内容の概要
株主総会において述べられた意見や発言があるときは、その意見又は発言の内容の概要を記載しなければなりません。
記載する義務があるのは、意見や発言のすべてではなく、会社法に定めがあるものとなります。
具体的には以下のものです。※下記以外のものを任意に記載しても大丈夫です。
- イ 監査等委員である取締役の選任若しくは解任又は辞任(342条の2第1項)
- ロ 監査等委員である取締役を辞任した者の意見(342条の2第2項)
- ハ 取締役の選任若しくは解任又は辞任についての監査等委員会の意見(342条の2第4項)
- ニ 会計参与の選任若しくは解任又は辞任(345条第1項)
- ホ 会計参与を辞任した者の意見(345条第2項)
- ヘ 監査等委員である取締役の報酬等(361条第5項)
- ト 取締役の報酬等について監査等委員会の意見(361条第6項)
- チ 計算書類の作成に関する事項について会計参与が取締役と意見を異にする場合(377条第1項)
- リ 会計参与の報酬等(379条第3項)
- ヌ 監査役が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不当な事項があると認める場合(384条)
- ル 監査役の報酬等(387条第3項)
- ヲ 監査役の調査結果(389条第3項)
- ワ 計算書類等について会計監査人が監査役と意見を異にする場合(398条第1項)
- カ 会計監査人の出席を求める決議があった場合(398条第2項)
- ヨ 監査等委員が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不当な事項があると認める場合(399条の5)
④取締役等の氏名等
株主総会に出席したすべての取締役、執行役、会計参与、監査役又は会計監査人の氏名又は名称を記載しなければなりません。
⑤株主総会の議長が存するときは、議長の氏名
株主総会の議長は、定款に定めがない場合は総会において選任しなければなりません(一般原則)。
実際には定款上、株主総会の議長は社長であることが多いです。
しかし、定款の定めは議長選任の手間を省くためです。
したがって、総会の決議で別の者を議長にすることも可能と考えられます。
⑥議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
議事録は取締役が作成しなければなりません。
そこで、実際に議事録を作成した取締役は自らの氏名を記載しなければなりません。
株主総会議事録に押印は必要?
株主総会議事録の押印は、法律上基本的には不要です。
上で解説したとおり、株主総会議事録は作成が義務付けられています(会社法318条1項)。
また、記載すべき意見や発言についても法定されています(会社法施行規則第72条第3項)。
しかし、取締役会・監査役会・委員会の議事録と異なり、その記載に特別の法的効果はなく、単なる記録や証拠の意味を持つにとどまるため、署名押印に関する規制はありません。
例外的に、押印が必要となるのは以下の場合となります。
※実務上は、議事録が真正に作成されたものであることを証明するために、少なくとも、議長と議事録作成者が記名押印することが一般的と考えられます。
自社の定款に株主総会議事録への押印を要する旨の記載があるケースは少なくありません。
こうした定款の定めがあれば、押印が必要となります。
取締役会非設置会社において、株主総会決議により代表取締役を選定する場合※、変更登記の添付書類に株主総会議事録が必要となります。
※取締役会非設置会社において、代表取締役を選定する方法は、①定款、②定款の定めに基づく取締役の互選、③株主総会の決議の3つの方法があります。
この株主総会議事録へは従前の代表取締役が届出印を押印する場合を除き、議長及び出席取締役全員の押印が必要となります。
株主総会議事録のひな形をダウンロード
まず、株主総会議事録を作成するための第一歩として、テンプレートをダウンロードすることをお勧めいたします。
業務の効率化、法令順守のためには、テンプレートを使用することが欠かせません。
このページでは、以下の通り汎用性が高く、法律面を意識したテンプレートを作成して公開していますので、ぜひこちらをご活用ください。
なお、株主総会には、定期的に開催される定時株主総会と、臨時株主総会の大きく二種類があります。
このページでは、それぞれについてテンプレートを作成して公開していますので、開催予定の株主総会の種類に従ってテンプレートを選択してください。
定時株主総会のテンプレートはこちらから
定時株主総会議事録のテンプレート(Word形式、PDF形式)を無料でダウンロードいただけます。
臨時株主総会のテンプレートはこちらから
臨時株主総会議事録のテンプレート(Word形式、PDF形式)を無料でダウンロードいただけます。
株主総会議事録の書き方
テンプレートの記載をもとに、株主総会議事録の書き方について具体的に見ていきましょう。
①冒頭部分
まず、冒頭は以下の通りです。
まず、別会社の記録に混じってしまわないよう、冒頭には「○○○株式会社」と会社名を書くのがいいでしょう。
次に、タイトルは「定時株主総会議事録」または、「臨時株主総会議事録」と記載しましょう。
株主総会の種類がわかるように記載することまでは法律上必須ではありませんが、後日、総会の種類から内容を遡ることが容易になるため、このような記載にするのがお勧めです。
続いて、株主総会が開催された年月日及び時間、開催場所を記載します。
これらは法律上必須の記載事項になっており、もし記載漏れがあれば法令違反になってしまいますので忘れずに記載するようにしましょう。
WEB会議・電話会議を通じてリモートで参加する場合
昨今は伝染病の流行や、WEB会議システムの発達により、リモートで参加される方も増えています。
もし、WEB会議システム(またはTV会議、電話会議)を通じてリモートで総会に出席している役員や株主がいる場合には、その旨も議事録に明記することが必要です(会社法施行規則第72条第3項第1号カッコ書き)。
例えば、「取締役○○○及び株主○○○はWEB会議システムを通じて参加」などと補記するのが良いでしょう。
加えて、この場合には、その会議システムが最低限の機能(具体的には、双方向かつリアルタイムで声のやり取りができること等)を備えていることについても議事録に記載するべきとされています。
第七十二条
3 株主総会の議事録は、次に掲げる事項を内容とするものでなければならない。
一 株主総会が開催された日時及び場所(当該場所に存しない取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。第四号において同じ。)、執行役、会計参与、監査役、会計監査人又は株主が株主総会に出席をした場合における当該出席の方法を含む。)
〜〜〜
②出席株主数等の記載
次に、「当会社の株主総数」「当会社の発行済株式総数」「自己株式総数」「当会社の議決権を行使することができる株主総数」「議決権を行使することができる株主の議決権数」「議決権を行使することができる本日出席の株主数」「議決権を行使することができる本日出席の株主の議決権数」の各項目を確認し、右の「○」の部分にそれぞれ数字を記載しましょう。
株主総会は、一定数の株主が出席していることが必要です。
そこで、株主総会が有効に開催され、有効な決議がなされたことを記録に残すために、これらの情報を明記しておく必要があります。
なお、「自己株式総数」とは、会社自身が自らの株式を保有している場合に、その株式数を記載するものです。
自己株式が存在しない場合には、「自己株式総数」の記載を省略することは問題ありません。
③出席役員の記載
次に、出席取締役および出席監査役、その他の出席役員をフルネームで記載します。
テンプレートでは取締役と監査役のみを記載していますが、法令上、「株主総会に出席した取締役、執行役、会計参与、監査役又は会計監査人」はすべて氏名を記載する必要がありますので注意しましょう。
また、株主総会の議長を務める取締役、議事録作成者になる取締役をそれぞれカッコ書きで記載します。
議長および議事録作成者が誰か、を明記することも法令上の義務になります。
第七十二条
3 株主総会の議事録は、次に掲げる事項を内容とするものでなければならない。
〜〜〜
四 株主総会に出席した取締役、執行役、会計参与、監査役又は会計監査人の氏名又は名称
五 株主総会の議長が存するときは、議長の氏名
六 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
〜〜〜
④議事および決議事項の記載
次に、議事の経過を記載します。
法的に重要ではない細かい経過を記載する必要はありませんので、審議開始の場面については、「上記の通り法定数に達したので、取締役○○○○は議長席に着き開会を宣し、審議を開始した。」といった記載を書けば足ります。
その上で、決議事項の内容ごとに、経過のポイントおよび決議結果を記載します。
定時株主総会議事録のテンプレートでは、上のように、決議事項ごとに時系列に沿って、議長が説明を行い、承認を求め、監査役が報告を行い、総会によって承認可決された経過を記載しています。
他の決議事項についても、同様に時系列に沿って必要な事実経過を端的に記載しましょう。
もっとも、特筆すべき議事の経緯や質疑が存在せず、決議事項について単に承認決議がなされただけの総会においては、臨時株主総会議事録のテンプレートのように、簡易に記載することもできます。
具体的には、冒頭で、「〜〜直ちに下記議案を付議したところ、満場一致の決議をもって原案どおり可決確定した。」旨を記載してしまい、後ろには可決された決議事項を端的に記載することができます。
どちらの方式で記載するのが望ましいかは、実際の株主総会の議事経過によって異なりますので、もし悩みがありましたら弁護士などの専門家にご相談いただくのが良いでしょう。
⑤閉会の記載
一通りの議事進行・決議事項を記載した後、締めくくりとして閉会について記載します。
記録のために、閉会時間まで記載しておくのがお勧めです。
⑥出席役員の押印
最後に、議事録の作成年月日を記載し、出席役員の記名押印をしています。
株主総会の出席役員の署名又は記名押印については必ずしも法的に必須の記載事項ではありませんが、議事録の信憑性を高めるためこのような対応をするのが望ましいです。
なお、取締役会の場合、株主総会とは異なり、議事録が書面で作成されている場合の署名又は押印義務があるので注意してください(会社法369条)。
株主総会議事録についてのQ&A
役員報酬変更に関する内容も株主総会議事録に残すべき?
株主総会を開催する場合、上で解説したように株主総会議事録が必要となります。
なお、定款で役員報酬の変更を行う場合、特別決議(出席株主の3分の2以上)が必要となります。
したがって、株主総会の決議で行うほうが簡便です。
定款変更に関する内容も株主総会議事録に残すべき?
株主総会を開催する場合、上で解説したように株主総会議事録が必要となります。
まとめ
ここまで、株主総会議事録について、テンプレートをもとに詳しく解説しました。
株主総会議事録の作成は、株主総会が実施された事後の作業ですが、法律上の義務対応であることを忘れず、慎重に作成することが重要です。
株主総会は株式会社における重要な判断を下す場ですので、数年後になって株主総会決議についてその有効性が訴訟で争われることも少なくありません。
その際には、株主総会議事録が有効に、正確に記載されていることが大変意味を持ちます。
法律上の義務を守ることは当然ですが、将来の紛争に備えるためにも、しっかりとした株主総会議事録を作るようにしましょう。
そして、そのために、できる限り弁護士に確認を依頼することをおすすめします。
デイライト法律事務所は、議事録の作成や確認など、株主総会に関する各種対応について、多くの実績を有しています。
株主総会議事録に関するお悩みをお持ちの会社の方は、ぜひ当事務所の弁護士までご相談ください。
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